ぽこあぽこ12号 掲載テキスト集

 

ハヤブサ人生さんインタビュー(99.1.7 2:25AM〜5:00AM) 22535文字(400字詰め原稿用紙約56枚)

バイセクシュアルについて   

■聞き手・日比野 真   
▼話し手・ハヤブサ人生

 

 

「設定フェチ」と「同志専」男の子

■ハヤちゃんはどんな人を好きになるんですか?具体的にはどんなのが?
▼いい設定をつくれる人、いいシチュエーションをつくれる人がすごく好きです。体的にいうと声がいい人、例えば森本レオとかね、あとは松坂慶子とか。声がすごくよかったり、手がきれいな人が好き。
■「きれい」というのは?
▼その人にあった手をしているというのが一番なんだけど、すごく手が厚くって、分厚くて、でも指が長くって、とかいうのがすごく好きかも。太いんだけどすごく長かったりとか。あと、指の使い方がきれいな人とかが好き。
■そういう人だったら誰でもOK?
▼細かく言えばいろいろあるけど、そういうことが大事な要素。声の質と、手と、しかも肘から下。つまりここ(肘)から下が太くて、二の腕が細い人が好きだったりとか。あと、しゃべり方が落ちついているとか。ギャアギャアしている人が嫌いとか。
■いいシチュエーションをつくるとは具体的にはどういうこと?
▼お互いが楽しめる状況をつくる人。どきどきしているシチュエーションをつくるのがうまい人。例えば初めてその好きになった人の人の部屋に行ったときに、「あなたが来てどきどきしてるよ」とか言われたりするのがすごくシチュエーション作りばっちりだよね。こっちだって「あっ、どきどきされてる」ってどきどきするわけじゃん。例えば車でドライブしていて道に迷っちゃったときに、「あなたと迷うんだったら、いつまでも迷っていてもいいなあ」みたいな、キザなことをあっさり言ったりとか、しかもホントっぽく、それがウソでも全然かまわないんだけど、「あっ、そうなんだ」と思わせる態度をしたり言葉づかいをしたりする人というのがすごく好き。うまくシチュエーションを演出できる人が好き。
■それと、さっきの「きれいな手の人が好き」というのは関係はあるの?
▼ないない!それぞれ別のこと。重なると素敵な感じ。あなたは?
■ボクの欲情コードは、、、
▼じゃなくって、好きになるのは?
■えっと、同志です。欲情コードではなくて「好きになる」ということを考えると、体を張って、何かを賭けて、物事なり状況なり人なりと対峙することができる、そういう局面に居合わせたりそういう時間を共有したりすると、突然相手を好きになります。
▼じゃあ、見た目とかは関係なし?部分的に「このパーツが好き」とかはないの?
■どんなにイケルコでも、ボクの欲情コードに引っかかるパーツを持っている人でも、好きになるということには質的な転換が明確にあります。それは、ボクがその人のことを「活動家である」と認めるとか、必要なときにちゃんとこの人は闘うことができるとか、自分がしんどいとか状況がこうだからとかごたごた言わないで、筋を通すためにびしっとちゃんと動ける、ということが、いつもではなくてもいいけど必要なときにちゃんとできるということがわかると、同志として信用できる。ボクが筋を通して話を持っていったら、それが理にかなっていたら、ちゃんと動く、という風に信用できると思ったりすると、がぜん好きになりますねえ。
▼おお!!ボクもそうだけど、日比野さんも欲情モードと好きになるというのは違うんだ。ボクの場合は重なることも多いけど。
■イケルタイプの美味しそうなコでも、いくら一緒にいたり話したりしてもときめかないことがあるわけ。体を触ったり触られたり抱っこしたりキスしたりくっついていたりするのは気持ちいいし幸せなんだけど、それはそういう快楽なわけ。それ以上のことを求められると、ボクの方のコードに引っかからない場合もあるのよね。
▼すごく分かる。わはははは。あるある。ボクもすごくある。なんか違うんだよね、ごめんごめん、みたいな。あと、欲情モードだけにしか引っかからない人と、好きモードにしか引っかからない人がいる。
■ぼくもそうだなあ。ただ、同志として信頼できるだけで、欲情モードには引っかからない人の場合は、「好き」という感情としてはあんまり認知されにくい。大好きなんだけど、それは仲良しの友達みたいな感じ。欲情モードを伴うと「好き」という認知のされ方になることが多いなあ。
▼言い忘れてたんだけど、目線がきれいな人も好き。目線てすごいよ。なかなか意識できるものじゃないしね。それを意識して使っていたりうまく使っている人はすごく好き。それはイケルイケないに関わらず全てがイケテくる。もうOKみたいな。実は体格とかは、好きな人モードにも欲情モードにも関係ないしね。今思い出しました。

 

惰性でセックス!?だめだめ

■ホモの状況にも合わせるという意味で、、、、
▼ホモ野郎の!(**ハヤブサ人生かく語りき・その1)
■そう、ホモ野郎の状況にも合わせるという意味で、欲情コードの話をもっとするといいかもしれない。というのも、ホモをどう定義するかという時に「男に勃つ人」とか「男に欲情する人」とかよく言うし。あとアカーがよく言っているのが「オナニーの時にどういうファンタジーを持つか、ということで、ゲイかどうかが分かる」というのがあるし。
▼俺なんかあれだよ、オナニーするとき自分しかいないよ。相手いらないから。鏡みてもう素敵だから、自分が。自分がいい!みたいな。しかも、オナニーしている自分じゃなくて、いい表情している自分とか、演技している自分がすごく好きで、それに欲情するね。オナニーするね、それでね。
■オナニーネタで性指向が分かるというのは真っ赤なウソですね。
▼ウソだと思うよ。あとね、たまにだけど、オナニーするとき自分で自分に強引にされたりする。強引系のネタは今までほんとにダメだったけど、最近、いい。自分で自分に、だから、絶対自分が嫌なことはしないし、むしろ喜ぶシチュエーションをつくるために、「強引系」っていう設定を取っているって感じで。オナニーするとき、自分しかいない。人がオナニーに出てきても、その人に対して自分がどうするかっていうことがオナニーネタであって、その人自身がオナニーネタになっているわけではない。その人が自分の新しい設定をつくってくれるということで登場するだけなんだよ。オナニーネタで性指向なんてわかんない。うそだようそ!バカなこと言ってんなよ。
■ところであなたの欲情コードは?
▼欲情コードは、シチュエーション。
■やっぱり関係派ですね。関係専。
▼ただ部屋に一緒にいるだけでは全然欲情しなくて、部屋に一緒にいるときに、ボクが居るということを意識して、緊張しているというのを漂わせる人とか、すごく好き。欲情するね。分かる?「エッチしたい」と突然言われるんじゃなくって、どきどき感を漂わせる人、ときめき感とか、そういうシチュエーションを創られると、「いくぜ」、いくしかないだろ、ってすごく欲情するな。あと、引くにひけない状況を創る人とか、自分で勝手に「自分が引けないぜ」みたいな状況に勝手に追い込まれる人っているじゃん。そういうのには欲情するなあ。シチュエーションですな。キザな言葉とかすごくうまくたくさん言ってくれたりとか。相手がどうかってのはホントに関係なかったりする。やっぱりどきどきだね。欲情は。惰性でセックスってだめだね。欲情って、どきどき感だから。日比野さんはどうですか?
■欲情には二系統あって、一つは見かけ。小さくて、華奢で、ピチピチしていて、若くて、かわいくて、肌がきれいで、毛深くなくて、、ちっちゃくてぴょんぴょん跳ねてるような元気な子がいいなあ。背伸びをしていたり、無理をしようとしていたり、きつい状況を何とかしようとしているような感じの、コ。
▼俺ダメダメ。そういうコはもうしんどい。
■そういうコをなめたり、触ったり抱っこしたり......
▼悪趣味! 
■もう一系統は、「好きな子」。好きなコはたいがい欲情する。例外もいくつかあるけど。でも、ボクこれまでの例だと、一緒に運動したりって感じで何かをシェアしたりすると、ホントに好きになることが多くて、ほんとに欲情するんやんか。で、たいがい×がつくんやんか。
▼辛いねえ。
■一緒に運動をするとかそういう関係が成立する人って、欲情が入らなくなる人が多くて、むしろそういう欲情もあり得るような関係から逃げようとするじゃない。なんでだろうね。 (生活と運動の話  これは省略)
■今いろいろ、欲情コードとか好きになることとかを言ってくれたんだけど、それと性別との関係はどうなっているの?
▼ないない。全く関係ないよ。男だろうが女だろうが、TSだろうがFTMだろうがMTFだろうが、もうほんとに、何のことって感じ。好きになった人が好きになった人。
■男ジェンダーが好きとか、女ジェンダーが好きとか、チンチンが好きとかオマンコが好きとかはないの?
▼全然関係ない。いい声を持ってて、いい指を持っている人は好きで、欲情コードにも引っかかるんだけど、男だから女だから引っかかるっていうのはないねえ。
■高い声が好きとか低い声が好きとかはないの?
▼中間。声質はこもった感じで、おちついたしゃべり方をする人だね。森本レオとか、声を荒げたりとかあんまりしないし、あと松坂慶子もそうだけど。感情をうまく言葉で言うけれども、ギャアギャアいったりしない人が好きなのかもしれない。
■性別には関係がない。
▼微妙に関係があるかもなと思うのは、男のジェンダーロールをものすごく引き受けている人とか、その人の性別がどうかじゃなくてね、女のジェンダーロールをものすごく引き受けている人とかは、苦手な人が多い。まあ、そん中でも、うまい具合に取り入れている人ってのは好きな人も多いんだけど。他人を他人としてちゃんと見れる人というか、人に押しつけたり否定とかしない人だとそれでも好きになることもあるんだけど。でも、あまりにもジェンダーロールを引き受けていると、疲れるね、ダメだね。

 

あなたの性別は?お人形さんの写真

■あなたはバイセクシュアルですか?
▼そうです。
■ところで、あなたの性別は何ですか?
▼なんて言って欲しい?
■う〜ん、ボクにも聞いてもらえます?
▼あなたの性別は?
■左翼です。
▼ボクにも聞いて!
■あなたの性別は?
▼ハヤブサ人生!あはははははははははははははははは!
■ところで、これではあまりに上級過ぎるので、もう少しくだいて、もう一回聞きます。
▼う〜〜ん、何だろうね、性別、なんだろうね。TS。かな?トランスです。
■あなたは男ですか?
▼はい。
■あなたは女ですか?
▼はい。
■いつもと言うことが違うんですけど、どうしてですか。
▼どっちでもありますけど、どっちでもないです。
■以前と言うことが違うんですけど、それは、心境が変わったということでしょうか、それともそういう言い方をここではすることにしたんですか?
▼そういう言い方をすることにしました。
■はい、わかりました。
▼前はなんて言ってたっけ。
■「ボクは男だ、女じゃない。」
▼前はね。それは心境が変わったんだね。自分の性自認というか、自分でこうだと思うのはまあ男だろう、男だなあと思うんだけど、体は女性の体をしていて、しかも、女性のジェンダーロールをすごく引き受けているので、しかも、すごく、戸籍的にも女性である、というかそうなっている。だけどボクは女ではないなあ。
■性自認が男だというのは、それは生まれたときからですか?
▼そうです。
■あなたがチンチンを見る目は、性別違和のない女の人がチンチンを見る目とはちょっと違う気がする。
▼意識したことはないけど。ホントはついてるはずだ、と思うからね。「何でないんだろう」って今でも時々、というか、裸になるたんびに思うからねえ。ありゃりゃ、みたいな。
■それはもう完全なトランスセクシュアルってことだ。

 

ちんぽが生えてないと男じゃないのか

▼そうは思っていても、今は売春婦をやっているので、慣れたね。そうすることで慣れるようにしたというのはあるけど。
■慣れるというのは何に?
▼自分のからだに。生理くるたんびにさあ、寝込むようじゃダメだと思ったの。それもあって売春婦をやるようになったなあ。それだけじゃないんだけど。自分の体を自由に使うぞ!って。
■実際に寝込んだりしてたんだ。
お仕事▼寝込んだりとかすごい荒れたりとか死にたくなったりとか、あった。一時期は、若いときは。今はもう全然そんなんない。やっぱり少し情緒は安定しなくはなるけど、すごくなんかねえ、辛かった。一時期は。生理が始まったときに死のうかと思ったからねえ。女になっちゃったんだ、と思って、すごいびっくりした。がーん!!!って感じ。頭ががんがんした。くらくらして。すごいショックだったなあ、怖かったし。なんで女になっちゃったんだろうって思ったし。女の体ってことにすごく違和感があったなあ。最近まで。ホントにここ数カ月前まであったんだ。
■セックスとかいやだった?
▼嫌い。すごい嫌いだった。今は好きだけど。というか、シチュエーションによってはいい。仕事以外のセックスは結構いいんじゃないかと思っている、最近はね。充実してます。セックスライフはね、オナニーライフもね。鏡みながらやるからねえ。
■鏡みながらやるってのは、自分の体を受け入れて、その体で楽しむことができないとできないことだねえ。
▼自分の存在をすごく認めたんだなあ、たぶん。パスすることが重要だって思わなくなったから、すごく楽になったんだなあ。パスすることだけだったからね、前は、ほんとに。それでも女装が好きだってのはあって、自分の中ですごい矛盾で、どうしていいかわかんなかったし、きつかったけど、今は、女装が好き、女性のジェンダーロールが好き、ってことだけど。自分の体だから、自分でいろいろ使えるはずだし、みんなと同じように男だからってちんぽが生えてないとならないという訳でもないし、逆に、「男だから、オッパイがあるというのはおかしい」というのはおかしい。「生理があるのもおかしい」というのもおかしいなあ、と思った。別にいいじゃん、こんなのもあるじゃん。自分が一番分かってる、男だっていうのは。自分でもはっきりそれは分かってて、周りがパスさせてくれなくても、自分の中で明らかにパスしているんだったらもう必要ない。男性器がすごく欲しいというか、あるはずだったのに、とかは思うけど、それが苦になったりはしないなあ、もう。逆があったっていいじゃん。男だから生えてないといけないの?

 

自分の体は自由に使う!

■感じ方が変わったのには何かきっかけとか、ある?
▼いろんなものを考え続けてきたから答えが出たってことなんだろうけど、タトゥー(TATTOO)を入れたりとか、ピアスをいっぱいあけたりとか、髪を緑色にしたり青にしたりドレッドにしたり、眉剃ったりとか、身体的に体を変える、爪のばしたり切ったりとかもそうだし、マニキュア塗ったりっていうのもそうだし、タトゥーとか特に分かりやすくそうだねえ、自分の体は自由に使うぞ、他人がどういう風に見るかっての関係なくて、自分がきれいだって思うようにしたい、自分の中に言葉として、実感として分かるようになった、理解ができた。ただやりたくてやってたんだけど、はっきりとそれが答えが出て。きっかけは、セックスが嫌いで、そういう自分の中に不得手があるのはいやだとか思って、売春婦なるぞとか思って、せっかく持ってんだから、女の体なんだから、稼げるんだし稼いどけとかおもって、売春婦やったり、もろもろの理由があって売春婦とかをやっているんだけども、売春婦、女の方の売春婦として働いているんだけれども、それだって社会的にはさあんまりというか全然認められてないんだけど、自分の体だから自分で使っていいはずだし、ピアスとかもそうだし、自分の体を自分が自分で使えるんだっていうのが分かったっていうのが、一番大きいかなあ。そういう風に思えるようになったっていうのには。自分の体だから自分で好きなようにします、って感じ。で、必要とあれば、性再判定手術っとかそんなバカなことを言われなくても(**注1)、自分で認めて自分で手術するってことができるはずだ、それが趣味だろうがなんだろうが関係なくホントに。傷跡だって好きなようにつけていいはずだし、自分の体の一番きれいなところに自分の好きな傷跡をつけたいとも思うし。自由に自分の体だと思って、自由に使い始めるようになったから、感じ方がかわったのかもしれない。
■ということは、一番うっとうしいのは、自分で自分の体を好きに使っているにも関わらず、それに対して勝手な意味付けを他者がすること。
▼めんどくさいねえ。ほっとけ、みたいな。というかオマエ自分のことやってろ。俺は自分のことするって感じかなあ。別に意味付けされたって痛くもかゆくもないんだけど、それを押しつけられるとうっとうしい。うっとうしいことで思い出したんだけど、ボクが「男です」と言うと「じゃあなんで化粧するの?」「じゃあなんで売春婦やってんの?」「じゃあなんで女をウリにしてるの?」「なんで女言葉なの?」全部が来るじゃん。で、しかもバカみたいなのが、「男なんでしょ、なんで男の子好きになるの?」。いやそれは...みたいな。もう!!、、男も女もさあ、もう、いい!男の方が確かにさあ、欲情コードに引っかかったときに落としやすい、はるかに女の子相手に比べると楽なんだけど。それは見かけで女の子だと見ている、からそれに乗っちゃえばいいわけだから。まあ、女の子でもくどけるけどね。自信ばりばり。こういうのは載せないで下さい。もてなくなるから。  なんかそういうバカなことをねえ、言われるとねえ、「もっと男らしくしてよ」とか、恋人にまで言われたりするから、ガショーン。だから!!好きだよとかいう話になった、あなたにちんぽがついていたら好きだわとか言われると「ガショーン!」。性器フェチ?まあいいけど。
■性器フェチ多いからね。
▼多いねえ。ボクも「手フェチ」だからなんとも言えないけど、まあ似たようなもんだと思っているから。それを押しつけられると困るというか、うざい。なんであんたが決めるの?って感じ。「こういう風にすると周りがおかしいと思うから」とかいうこととそれが関係してるんだけど、そういうのが押しつけられるとうざい。ほっとけって感じ。ほっとけって言われるためにはさ、それなりにお金を稼いでいないといけないわけでさ、まあその辺はおいといて、、、大変なんだけど。

 

ブレイブしてゆく僕。

■売春婦やるときには抵抗はなかった?
▼あったあった。セックスが嫌い。で、女として扱われるのがすごく苦痛だった。どっちもあって。自分でそれが苦痛だというのは分かっていて、苦痛だと思うことを克服したかったので、すごい有効だったなあ。すごく苦しんだけど。短期間で分かるようになったし、長々と悩まないで済んだというか。あと、ボクはサバイバーといわれる種類の人の中にも入るし、ボクはサバイバーという言葉は嫌いで、ここでは「ブレイブ(brave)した人」と言って欲しいんだけど。
サバイバーの写真■えっ?ブレイブ(brave)って?
▼その状況をちゃんと闘ってきた人。被害者とかじゃなくって。そういう状況にたまたまそうなって、それを自分で切り抜けてきた。生還者(サバイバー・survivor)っていうのもボクは好きじゃなくって、生き残っちゃった、前にあったあれは間違えだった、のように聞こえてしまって、ボクはひねくれ者だから、すごく嫌い。「ブレイブした人」。友達が使っていたんだけど、「あなたはブレイブしてきたのね」って言われて、すごくいい言葉だと思ったんだけど、すごい救われたような気になったの。その時の嫌な状況下であっても自分が自分であったんだということをその人が認めてくれたような気がしたんだ。そういう目に遭わされたかわいそうな人ではなかったんだ、生き残っちゃった人ではなくて。ボクはどっちかというと「生き残っちゃったんだ」という気がしていたんだけど、そういう状況に合いながらも、生きずにはいられなかったんだ。自分はすごく卑しい人間のような気がしてすごく自分のことが嫌いだったんだ。だけど「あなたはブレイブしてきた人なのね」って言われた時に「あっ」と思った。人に認められることが重要とかじゃなくて、こういう風に誰かに言って欲しかった、自分では答えを見つけられなかったんだけど、それを探していたんだと思う。すごくいい言葉だなあと思う。自分でその状況下でもきちっとと判断してやってきたんだ、という感じがあっているから好きで、「ブレイブしてきた人」と言って欲しいんだけど。  で、そういう経験があったから、昔はそれがトラウマだったりしててねえ、それもいやだったんだ。自分に不得手があるのが許せなかった。弱点と分かったものは解決しないといけない、と思っていて、じゃないと自分をいつまでも否定しちゃうし誇りを持てなくなるから。今は自分にすごく誇りを持っているし、売春婦やっていることも恥ずかしいとも思わないし、それはボクがブレイブしていく中ですごく必要なことであるし、これから続けるかどうかは別にして、続けられない仕事だと言っているわけじゃないけど、すごく重要な過程だなあと思っているので、売春婦というのはボクにはなくてはならない道だったのだ。

 

なぜ性別を聞くのかなあ

■あなたが「男だ」っていうのはどういう意味なの?
▼例えばあなたが事故にあってさ、脳みそだけが残ったとするじゃない、「あなたは男ですか女ですか」って聞かれた時、体はないんだよね。でも多分「男です」って答えると思うんだよね。昔からだがそういう体だったからっていう理由じゃなくて、やっぱり「男だ」と思うと思うよ。それと一緒。体は関係ないなあ、と思う。自分でそう感じているから、それは正しいし。「なぜ?」って聞くならまず自分のことを考えなよ、って気がするなあ。 「男です」って言い切るけど、別に男じゃなくてもいい、ボクは自分自身であればいいだけだから、「なぜ性別を聞くのかなあ」って逆に言いたいなあ。なぜ必要なの?手術とかする時に交通事故の時に「女性か男性か」って聞かれるのはそれは子宮が破裂したりとかは男性の体を持っている人にはないわけだから、、、まあ中性の人にもあり得るけど、だから「あなたの性別は?」って聞かれた時に答えるのは病院とかでは正しい気がするんだけど、それ以上でも以下でもない、それ以外にはなんの意味も体ってのは持たないような気がする。
■その言い方が正解のような気がする。むしろだからこそ、どうしてあなたは「ボクが『男だ』」って言ったことにこだわるの?どうしてあなたはボクの性別を聞くの?って言い返すのが正解だな。
▼医療現場でしかホントに意味がないことじゃない。ランドセル女の子が赤とかさあバカなこと言うんじゃないよ。なんの意味も持っていないものをすごく意味付けして「この子A型」「この子AB型」「この子B型」で教育方針を分けます、みたいなもんでさあ、そんなバカなこと今時やる人いないじゃん、眼の色が茶色だからこっちとか、背の高い子だけを集めた学校なんて、ばかばかしいと思うでしょう。それと一緒だなあ。なんの意味もないものになぜそこまでこだわるのかという気がしてしまう。しかも女性に女性のジェンダーロールを押しつけたり、男性に男性のジェンダーロールを押しつけるってのもばかばかしいし、体の話ではないけど。ホントに性別自体に意味がないのに、「A型はA型らしくしろ」みたいなさ、ことを言っているわけじゃない、世の中は。そういうのはホントにアホクセ、みたいな、何が聞きたいんだオマエは、って感じ。「ぼく性器フェチなんだよ。君がマンコもってたら好きだなあ」とか言われたら「マンコあります」とかって言うくらいのネタでしかない。「オチンチン大きい?オチンチン大きい人好きなんだよ」みたいなもんだなあ。それ以上のなんの意味もないというか。どう思いますか。
■論理構成上、全く正しいと思います。それから、白状するとというか白状させられますと、わたしは性別にすごくこだわっている人なので、、、
▼知ってる知ってる!
■性別を聞いてしまうんですよね。
▼別にいいと思うよ。ボクは今の世の中ではすごく有効だとそれは思っていて、「男ですか、女ですか」って聞くのはすごい有効だなあと思うのは、女性の体を持って女性として育てられた人、ジェンダーロールが分かったりするのは話すときにすごく楽なんだよね、どういうふうに反応が返ってくるかあらかじめ心の準備ができるじゃない。だからってそれだけで見る訳ではないけど。実際そういうふうになっているからね。

 

ジェンダーロールは文化だ!

■ジェンダーロールっていうのは一つの文化体系であって、いってみればそれは一つの民族のようなものだ、と最近ぼくは思っているんだけど。
▼あっ、そうそうそう。「あんたアメリカ人?イギリス人?」って聞くような感じ。
■全くそう。全くそういう問題で。じつは、これも上級者向けだけれども、ジェンダーと民族というのはいずれもフェイクであって、意味内容として指している実体は存在しない、従って、全く置き換えが可能。で「あなたの性別は?」「日本人」、「あなたの民族は?」「男」というのが、文字どおりの意味に於いて全く正当かつぴったりくる言語表現なんだということは最近すごく思う。
▼ボクもすごく思う。そうだねホントにその通りって感じでさ。今の時点では聞くことには意味がある、、
■むしろそれは問題を顕在化させることができるから、関係が創りやすい。
▼だけどあんまりそれ以上の意味はない。だから逆に、あなたを女の子として扱います、という態度をとられても逆にだからそんなことでは怒らないっていうか、「あなた韓国人にみえるから、韓国風の料理つくったのよ」とか言われて「ああそうですか」ぐらいなもんじゃん。そんな感じで「女の子として扱っちゃって、レディーファーストにしちゃった」とか言われても「あっそうですか、はいはい好きにして」って感じ。もうそれ以上の何の意味もないから、その人がそういうふうに扱いたいのなら、どうぞご勝手に。「イギリス人だからケチャップばりばりのフライドポテト」(**注2)とか、「日本人!イェイ!寿司!」とか言って出されても、ああそうですかと思うじゃん。別に日本人みんなが寿司が好きな訳じゃないけど、怒こんないじゃん、別に。怒る人もいるけど。「食べろ」って強制されたら怒るけど、「好きだと思ったからつくってみたよ」って言われたくらいじゃおこんないよね。勝手にその人がやったことだしさ。だから、聞かれてもおこんない、今はね。
■昔は怒った?
▼昔は怒ったね。「バカかオマエ!先にオマエ自分が言え」みたいな。でもさ、考えるとさ、自分でもさ、やってんだよ同じようなことを。
■例えば?
▼中国人だから自転車のれると思った、とか。黒人だからリズム感いいと思ったよ、みたいな。そういうことはやっぱりやってるから。アフリカ人だから眼がいいでしょ、なんで眼鏡かけてるの?、みたいなことを聞いたりとかしてるから、ボク。でもそんなのはあってあたりまえ、だってわかんないんだもん。聞くことなんて全然悪くないと思うよ。いいじゃん、別に聞けば。
■そっからしか始まらないんだもんね、関係は。
▼なんでそんなこと聞くの!って言ったらそれでおしまいだよね。あなたには教えたくない、って言ってるのと一緒だもの。
■別に教えたくなければ教える必要もないんだしね。
▼別に言う必要もないし、言われたからっておこる必要もないし。ただ、問いただしたりとか、相手にそれを押しつけたりとかするのは、失礼だよね。あと、紹介するときに「彼女はね、」とかいうのはおかしいよね。押しつけている。押しつけさえしなければ、何をやろうが関係ないっていうかさ、質問しようがなにをしようが、答えるのを強制するのはおかしいけど、質問したからって怒るのもおかしいんじゃないって気がする。まず自分のことを話したらとももちろん思うけど、どっちが先かっていうのもバカみたいな問題じゃん。まあ、名を聞く前に名を名乗れ、てのは確かに礼儀なんだけど、そう思うんだったら、「なぜあなたが先に言わないの?聞くのは全然かまわないけど」っていうのをちゃんとしかもやんわりと言うのはできるはずだしさ、最初からけんか腰になる必要はないなあと、最近は思うようになりました。
■ホントにそう思うなあ。関係はそこからしか始まらないから、聞いちゃイケないってのは、なしだね。
▼分かってて聞くのはバカだけどね。悪意があるものと無いものとは分けるけど、分かってても日比野さんが「彼女は」ってボクのことを紹介することはあるかもしれないじゃん。そのこと自体というよりも、なぜ分かっていてボクの嫌がるようなことをするんだい、ってことは聞くよねえ。心意を聞いたりはするけど。

(服が偽物・フェイクだっていうお話し・省略)

 

コウモリ人生林ますみ風写真

■じゃあ、そういう性別であるハヤちゃん、性自認が「ハヤブサ人生」で、男だけどスカートもはくし化粧もするし女装も好きで、場合によっては人から男に見られたり女に見られたり性別不詳と見られたりするハヤちゃん、好きになったり欲情したりする相手も性別は関係ないハヤちゃんが、周りの人や友人とかからどんな風に扱われたり見られたり、どんな経験をしてきたのかを教えてもらえませんか?
▼「男です」って言うと「なんでそんなかっこうしてるの?」とか「もっと男らしくしたら」とか「なんで男の恋人がいるの」とか、よく言われるよ。「うるせえ!」ってかんじだけど、ボクに言わせれば。周りになじもうとはしているんだけどね。
■「周りになじもうとして」というのはどういうこと?
▼「女の子だ」と思っていることが明らかに分かっている人には、「わたしはね」って言い換えたりとかしたりするなあ。恋人になった人がボクのことどうしても「男だ」って見たい人だったら、男の子として振る舞うし。円滑にするためにどっちもできるんだからどっちもやるよって感じ、相手に合わせるために。やっていることが、当事者間では全く問題が無くなっても、周りから見ると「変な奴」だねえ。「何やってんだあいつは」「ころころ変わりやがって」「変な人に見られたい人なんじゃないの?」みたいな。勝手に言うな。まあ、勝手に言ってもいいけど。すごく変な人扱いされるなあ。あと、「扱いにくい奴」とか。
■周りからは「一貫していない」と見えるんだろうね。
▼全部一貫してるんだけどねえ、ボクの中では。それを、説明も求めないでさあ、「一貫してない」とか怒ったりする人がいてさあ。勝手にしたらって感じ。
■そういう周りとのトラブルは、ハヤちゃんの性別の在り方を巡って起こるの?それとも、連れている相手、恋人とかの性別を巡って起こるの?
▼どっちも、だけど。基本的にはハヤブサ人生の性別がどっちなのか、でそういうのがあるねえ。「なんでそんななん?」。男か女かどっちかじゃないと安心できない人たちが多いからそういう風に思うんだろうなあ。どっちかの枠にはまってくれないと困る。訳のわかんない奴は嫌だ、ってかんじじゃないの。 あとほら、なんて言うの、その、ホモの、ホモセクシュアルのコミュニティーには入れないんだよねえ、ボクは。女の子だからさ!どう見ても!体も女だし、声もそうだし。だから、絶対ホモセクシュアルのコミュニティーには入れないし、しかも利害関係とか話も一致しないし、、、
■どの辺が一致しないの?
▼だって「男じゃない」もん。性器持っていないし。「ホモセクシュアルとして」差別されているわけじゃないじゃない、ボクに対して。だからそういう面で一緒に行動する必要はなかったりするんだよね。あとホモセクシュアルの人は女性の体を持った人が好きでない人が多いからねえ。「変な、頭の狂った変な奴が来た」みたいになると思うし、逆にレズビアンのところに行くと、「自分のことをレズビアンと言い切れない奴」みたいな変なレッテルを貼られたりしてしまうよね。あと「バイセクシュアルです」ということでそういうところに入ったりしても、男の恋人ができると「ヘテロじゃん」とか。「へぇ????」みたいな、もうほんとに訳分かんないんだよ。その時々によってホモセクシュアルだったりレズビアンだったりってみえるだけで、ボクは「ゲイ」であって、それは何も変わらない。ボクの中の意識はね。だって、この人指きれいだからいいじゃん、って話だよね。設定つくるのうまいよね、とか。どっちにも行けないコウモリさんのような存在ね。大変ね。

 

僕はノンパスTVです

■自分のことを「ゲイ」と呼ぶのが一番好き?
▼うん。楽。ぴったりね。
■どういう意味で「ゲイ」という言葉を使うんですか?
▼「ゲイ」というのは男性のホモセクシュアルに対しての言葉ではなくって、今、日本でよく使われている「クイヤー」にすごく近い気がするんだよね。「クイヤー」と近い言葉みたいにボクは見てて、どっちの性別も入るしどっちでもない人も入る。しかも、TVとか、ヘテロのTVとかも入ってくるなあ。だからゲイという言葉をよく使うなあ。
■その言葉の使い方は日本ではあまり一般的ではないと思うんだけど、どんな人たちとの関係の中でその言葉を使っていたの?
▼ボクねえ、沖縄の出身だからさあ、基地があるから。すごく身近だったんだよね、関係が。その中でゲイっていう言葉が出てきて、自分のことだなあと簡単にそう思った。すごく自然に自分の中に入ってきたなあ。
■日本語で何か適当な言葉はないですか。ぼくの場合は自分のことを「変態」とか「オカマ」とか言うんだけど。
▼日本語でぴったりくるのは「変質者」。ぴったりね。くるね。あと、ゲイってのは、ほらボクは人から「女性として」見られているから、日本ではゲイっていうのは男性の同性愛のことである、男性のホモセクシュアルのことを指しているから、逆に、ボクが使うことで意味が合うんだよね。うまく言えないんだけど。ボクは「ゲイです」と言う方が意味がすごく通じやすいというか、頭のいい人には分かるよね。あとは変質者ってのも。質が違う。「変態」とかだとしょうがなく変な人って感じであんまり。ボクが女性に見えるというのがすごく関係が大きくあって。ボクが男性に見えていたら「オカマ」と言うのに意味があって。その辺の説明は日比野さんどうぞ。
■「オカマ」ってねえ、「男でない男」「男を降りている男」「男らしくない男」のことだよね。
▼ボクが言うとそのまんまになっちゃうからね。「男でない男」「男らしくない男」「あっそうですか」て感じだからね。うまく説明し切れてない気がするしね。話がそこで止まっちゃうからね。
■ぼくの場合は逆に、はたから見たらどう見ても男で、女装したときもノンパスTVで、しかもパスすることを全く欲していなくて、ぼくの場合は、男に見える人が開き直った言い方としては「オカマ」と言うのが一番インパクトがあるかなあと。
▼ボクもノンパスTVなんだけどねえ。全然違う意味でねえ。
■ ▼(爆笑)
■どっちからどっちにトランスベスタイトして、どっちからどっちにノンパスなんでしょう。
▼もう訳分かんないよねえ。どっちからどっちにでもないんだけどねえ。好きなように生きてま〜す、なんだけど。 でも、こんだけちっちゃいとねえ、ダメね、ダメダメ。男性としてパスできないね。
■でもね、あんた、少年に見られることもあるよ。
▼あるねえ。たまにパスするんだよね、男性として。女性としては死ぬほどパスしてんだけどね。オッパイがなければ男の子としてパスすることもあるんだけどね。これから年取っていくと、「男の子」としてはなかなかね「オヤジ」としてもパスできないからね。どう考えても。
■いいじゃんずっと少年でいても。

(陰毛を剃ったりしているという話・服の話・省略)

 

押しつけないから楽ね

■ハヤちゃんは昔、沖縄に住んでいたんだけど、向こうではどうだった?こっちとはなんか違った?
▼そうだね、だいぶ違うような気もするけど、新しく関係をつくり始めたから違うのかなという気もするんだけど、沖縄ではあまり齟齬が生じないというか、やっぱり沖縄にいても変な奴は変な奴だったんだけど、やっぱり「なんだアイツ」みたいなのはあったんだけども、男か女かというのはあまり関係なかったような気がするんだよね。まあ、関係あるんだけど、それを前提にしてるのかもしれないけれども、それを押しつけられたことがなかったから、押しつけられたところからはもちろん拒否してどっか行っちゃたんだけど、その結果、ボクがいた世界というのは、沖縄でも特殊なのかもしれないけど、別に女の子に見えようが力仕事はするし、男の子としてパスしている子でも、「こいつ弱そうだから鉄筋運ぶの無理やろ」とか、「オマエでかいから、これ運べよ」って世界にいたのね、ボクは。そういうコミュニティーというか、そういう人間関係の中にいたから、そんなに齟齬が生じなかった。沖縄全体がそうだっていう話ではなくて、ボクが作った世界というのは結局そういう感じだった。こっちだと、「女の子にそんなことさせるなんて」とかあったりするんだけど、沖縄の風土としてかもしらんけど、別に女の子だろうが殴りたいときは殴るみたいなことがあったりなんかして。なんて奴、とか言われるけど、日常茶飯事というかさ、ほんとに茶飯事としてあって、力仕事を女の人がやるとかいうのもそんなに違和感無いと思うな。スカートとかはいていると「ちゃらちゃらしてうるせえ」とかってなって、作業出来ねえひっかかるから、オマエら掃除してろとかなったりもするんだけど。それと「バイセクシュアルです」って言ったら「俺も俺も」「わたしもわたしも」って人がたくさんいたりとか、結果的にできた仲間はそういう人たちが多くって、別に男の子だ女の子だとかは関係ないなあという感じの考えを持っている人たちの中にいたので、押しつけられない限りさあ基本的にボク気にならない人だから。押しつけられなかったね、「女らしくしろ」もないし。あることはあるんだけど。日本の文化すごい入っているし。でももともと沖縄ってポリセクシュアル(**注3)な土地だし、、、、
■ポリセクシュアルっていうのは?
▼多対多とかがOK、一人対一人でなくてもOKみたいな。あと、性別にもいろいろあって「男」「女」のどっちかであることに固執しないで、しかもTSみたいな人もいて、いろんな性別の人がいる、みたいな。っていうのが沖縄にはもともと文化としてあったみたいだし、フリーセックスの国だったみたいだしもともとは。今はもうそんな感じでもないけどね。多分そんな風土とかも根付いていて、そんなに違和感あったことは無いなあ。あとアメリカの文化とかちょこちょこ入ってきてるから、かもしれないけど、楽ね。すごくいい状況にあるというわけではなくて、今の時点ではベターって感じ。
■どうして?
▼押しつけないから。
■アメリカというのは関係があるの?
▼なんかねえ、ホワイト、ブラック、カラー、日本、沖縄、とか(**ハヤブサ人生かく語りき・その2)がんがん混じっているから、違う人種に対して、そんなに違和感なく付き合ってるんじゃないのか。慣れてんだよね、そういう異人種がいるって事に。沖縄にいるからこうしないといけない、てこともないし。別に押しつけられる気がしないしなあ。押しつけないから楽。その人の前提がどうかということは関係なく。
■そういうところから感じるのか。そういう意味では日本本土は日本人しかいないことになっているから。
▼ホントはそうでもないのにね。
■そうそう。ブラックとかホワイトとか、明らかな他者だから、明らかな他者に対する緊張感があるのかなあ。
▼違うのが当然という感じじゃないの。混血とか進んじゃうとさ、クラスにもさ、混血いっぱいいたりとかしてさ、どこの混血かなんてもう関係なくなったりするしねえ。ふりむん(**注4)も当然だしね。自分の学級にもなんかちょっと違っている人がいて、学校に行ってた頃ね、それも全然普通だったし、当然のこととしてみてた。あと、教育もあるね。ボクの育った環境が「まあ、みんな違うの当然でしょ」ってかんじだったから、そんなもんだと思ったし、ボクがこんな考え方していると周りにそういう人しかあつまんなくなるし。それでそういう中で生きてきたから、それを理屈づけるためには「沖縄だからなあ」とかいう考えを持ち出してるんだけど。

(沖縄の話・省略)

 

ボク、シュークリームが好きなんだよ

■バイネタって重要な話だと思いますか?
▼いや。
■さっきは「うん」って言ったのに。
▼今まではなしたので十分説明したので、「いや」って言ってもいいと思ったの。
■質問変えます。ハヤちゃんにとって、バイネタって重要なことですか?
▼大事ではないけどね。重要だけど。手段としてその言葉が必要な時は多いなあ。ボクは、男でも女でもなくて、しかも女装が好きで、って全部説明しないといけなくなって、その言葉がないと、「別にどっちが好きかではなくって、指好き」とか。そんな細かいことまでうっとうしい相手に説明までしたくないわけでさ、「レズなの?」って聞かれたときに「いやバイです」って言うのはすごく楽。男の恋人も女の恋人もできる訳ね、っていういことになる。楽な言葉だし、よく使うね。自分で自己紹介とか、ある程度分かる人に説明するとき、TSで、TVで、バイセクシュアルで、ブレイブした人で、とか説明するなあ。あと、ポリセクシュアルです、って言えば通じる人もいるけど。それで済むからねえ、済む人には。楽。
■バイの話とかトランスの話とかは人と関係つくるときには大事な話として出てくるのかな?
▼いや、ボク、シュークリームが好きなんだよね、とか、チョコレート好きなんだよね、とか、同じレベルで、「バイなんだよ」ってだす。話のなかでさあ、「やっぱり彼氏とか欲しいやんなあ」って言われたら、「彼氏でなくてもいいけどね」「なんで」「バイセクシュアルだからさ」、で終わる。その価値観を押しつけないで、前提にしないで、っていうことを主張するときに使うかな。「だよね」とか「あんたもそうでしょ」ってのを当然のこととして言われると困るので、それを言う。別に重要なことでもなんでもないんだけど、道具として便利。終わり。それだけ。でも「バイ」って言葉バカだよね。
■どうして?
▼男か、女か、でしょ!どっちかでしょ。どっちでもない人だって好きなんだもん。ボク、人間だったらさ、誰でも好きになる可能性があってさ、誰でも好きになるわけではないけれども。だからアホくせえ、っていうか、うるせえいちいち、ってかんじ。なんで「どっちか」だ、バカ!。
■まったくだね。
▼しかも自分が男でも女でもないって言ってるのにさ、もう、どっちかなんて言われたら愕然とするよ。アホちゃうか!

 

みんながみんな違うのだ

■いろんな話をしてくれるんだけど、ハヤちゃんが一番伝えたいことはなんですか?
▼別になんにも伝えたくないけど、でも伝えたいんだけど、別にメッセージを込めて言っているって事はなくて、ホモフォビアのこととか、TSの話とか、身体改造の話とか、全部共通して下に流れているものがあって、うまく言葉で言えませんが。差別とか、全て根本が一緒なんじゃないかと思って。
■ぼくが思っているのは、バイの話ってのは、本当にバイセクシュアルの人っていうのがいて、その人たちがこういう人たちなんだっていうことを理解することを、別にぼくは求めていない。ぼくが言っているのはそういうことではなくって、性別の二元論にしろ、性指向が男か女かってことにしろ、自分にとってリアルで切実で大切なこと、というのは、自分にとってそうであるに過ぎない、ということをちゃんと自覚的に生きて欲しいなあ。バイの話を一般的にするときに思っているのはそういうことであって、バイの話は、ぼくと個人的な関係をちゃんとつくりたい人、ぼくがつくりたい人にはこちらから必要とあれば話をするし、向こうも関係をつくりたければ当然興味はあるだろうし、という話なんだけど。別に個別の話としては、ぼく自身としても他の人の話で知らないことはいっぱいあるし、全てのことを知ることはできない、基本的には一緒にいたい人の話にしかつき合えない、つき合えないというかそういうものしか考えられない、というのが事実だったりするんだけど。だからこそ、知識があるとか、分かっているとかじゃなくって、見知らぬ誰かと話をしているときに、自分のワールド、日比野ワールドを勝手につくってそれを押しつけてしまう、あなたの言葉を借りると押しつけてしまう、そういうことをしないやり方があるといいなあ。特にバイの話をゲイの人にするときはそれが言いたくて、ちゃんとマイノリティーと向き合えってことかな。
▼自分の目の前にいる相手を他人だとちゃんと認識して、自分とこの人は違うのだ、というのを分かって、というか分かる努力をして、みんながみんな違うのだ、みんなが同じということはありえない、もちろん共通点が多い場合もあるし共通点が少ない場合もあるけども、みんな基本的には別であるというのを認識して動ければ、別に差別とかもそんなに、そんなにねちっこいものにならないような気がするけどなあ。差別とかは絶対、絶対!あるからさ、なくなりはしないけど、たぶんね、なくなったらそれは理想的だけど。自分たちで場を変えるって事だけはやることが必要かなあと、ボクは思います。

 

(**ハヤブサ人生かく語りき・その1) ホモ野郎!
  いっつも男ばっかでかたまりやがって、という怨みを込めて罵倒語を使ってみました。第1、男は権力を持っているのでたちが悪い。世の中男以外はいらないと思っているようだから、男以外は排除しやがる!ニャロメ!

(**ハヤブサ人生かく語りき・その2) ホワイト、ブラック、カラー、日本、沖縄、とか
  ボクの周りの環境では「ホワイト」「ブラック」「カラー」とかいう言葉はよく使っていた。でもだいたい人のことを肌の色で代表させて分類するなんて、「男」「女」と同じくらいアホらし!

(**注1)
 性再判定手術っとかそんなバカなことを言われなくても 性器を含む自分の体を自分の好きなように作り替えるのは本人の自己決定権であるが、現在は体や性別の自己決定権が国家と社会によって侵害されており、医者が「性同一性障害」と認定して性再判定手術を行うケースでない限り、本人の意志に基づく手術であっても母体保護法第28条により違法とされてしまっている。詳しくは本特集における日比野の論文「『女?男?いちいちうんざり!』と言い続けていくために必要不可欠な主張」を参照のこと。

(**注2)
 「イギリス人だからケチャップばりばりのフライドポテト」 もちろんこの発言自体が偏見に満ちています。「イギリス人」とか「ケチャップ」とか。

(**注3) ポリセクシュアル
 「ポリセクシュアル」という言葉は、体の性別・性自認・性役割・性指向の全てにおいて性別二元論を強いる、今私たちが生きる「モノセクシュアル」な社会の在り方を相対化するのに有効な言葉であると思う。参考文献として「ユリイカ(1998.2月号・特集「ポリセクシュアル」・青土社)」。

(**注4)ふりむん
 「気」が違う人のことをあらわす沖縄の言葉

 

 

番外編:《ハヤブサ人生の主観による》沖縄の話

以下は、インタビューの途中で出てきた話です。バイセクシュアルの話とは直接は関係ありませんが、日比野の趣味により特別掲載します。

■沖縄の話がいっぱい出たんだけど、ぼくも沖縄に行ったときにいろいろハヤちゃんに連れていってもらって、いろんなものを見てきたんだけど、沖縄というのは日本政府と合州国政府の植民地だなあということをすごく感じて、基地を返還すれば済むという話では全くなくって、こうすればいいという話が見えてくるわけでも無くって、にもかかわらず、そこに問題があるという事は良く分かった。なんだけれども、そんな感じで日本に帰ってくると、その感覚を周りの人とシェアするというか共有するのが非常に困難で、こちらも何を言いたいのかがよくわからなかったり、何が問題になっているのか自分でも分からなくなったり、話そうとしても相手が興味がなくって会話が成立しなくて、てな感じで、わたしが沖縄でハヤちゃんにいろいろ連れていってもらって感じたり考えた話というのはとても大事な話でみんなで考えなくてはいけない話のハズなんだけど、なんかそうでない、わたしの個人的な話にされてしまって、なんかこれ嫌だなあ、とか思った。ハヤちゃんもこっち来てそんな感じはなかったですか?
▼そんな感じってのが一緒かどうかは分からないけど、あまりにも知らなすぎるねえ、沖縄を観光地としてしか見ていなくて。観光に来たら実際楽しいところにしか行きたくないしさ、分かるんだけど、あまりにも安易に考えすぎていて、沖縄というところが植民地化されていて、しかも日本化されている、で、どんどん文化が失われていって、ていうのが平気で行われていて、知らないうちに実は沖縄を搾取しているんだけどもみんな、みんな当事者なんだけども、日本にいると、遠く離れているし、それに関わらずに済む、それを見ないで済むから、関わろうとしないし、その辺とかはすごく嫌な感じだ。
■見ないで済むというのは本当にその通りで、全く関係なく暮らせる、、、
▼いや関係はあるんだよ!だから!関係なく暮らしてるんじゃないんだよ。関係してるんだけどそれを考えないで済むだけ!関係はすごくしてる。
■どう関係があるの?
▼沖縄を犠牲にした、というか、植民地化することで自分たちの生活が成り立っていることが多分にあるわけで、例えば基地の問題を沖縄だけに押しつけることで自分たちの生活を守ってる、とか。これが本当にさ、日本にさ、どっかにボンッてさ、あんなに大きい基地があったらさ、やっぱり自分たちの問題のハズなのに、それが沖縄だけにあんなにちっちゃい島にボコンってさ、走っても走っても基地のフェンスがあってさ、その状況を押しつけててさ、関係がないとは言わせないよ、っていう感じ。その上であんたたちの生活は成り立ってるんだよ、ってのはすごく思うなあ。日本に来るとというか、日本人として暮らしている人が「沖縄のことなんか関係ない」とか言うと、とてもそれはもうすごく腹が立つ。だから実際なにかしろと言うわけではないけども、考えなければいけない、考えずに済むのはどうしてなのか、という気がしちゃうな。「あんたら、えらいな!」みたいな。言葉にならないんだけど。押しつけてることを分かってないってことがまず腹立たしいんだよな。基地返還とかしちゃえば問題が解決するだろうと考えるのは、それは間違っていて、実際、返還された読谷飛行場、何キロにも渡って滑走路が残っていて、しかもその滑走路をつくるためにセメント流し込んじゃって、土が死んじゃってて、そこ何も使えない場所でさ。何してくれたの!みたいな。返還されてもその場所は結局使えなくてさ、どうしようもなくてさ。結局返還されてもなんにもならない土地も実際いっぱいあるわけで。あと、自然とかをばんばんこわしてるなあ。
■それは戦争の時からそうだね。
▼いや、その前から。薩摩藩が沖縄を侵略したのもそうだしね。勝手に植民地にして、どういうことだ、みたいな。責任取りやがれ、みたいな感じ。責任って感じでもないんだけど。そんな、のほほんと「日本と関係ない」と言われると腹が立つ。基地をあんだけ押しつけてて、関係ないとは言わせないよ、ってかんじ。そのおかげであんたたちの生活は成り立ってるんだよ。この話はすごくボクの主観だけで話すことになるんだけど、沖縄に住んでいる人がみんなボクみたいに考えているかどうかはわかんないんだけど、いいのかな。「なんだよそれは」とか文句になっちゃうんだけど。う〜ん、、、。
■よい。
▼ボクは沖縄の人アイデンティティーが別にある訳じゃないんだけど、いやあるけど。
■ハヤちゃんの言っていることは本当にそうで、、、、、、、、、(沈黙)
▼この話はすごく微妙だからやめた方がいいんじゃないかなあとも思うんだけど。ボクからは批判的な話しか出てこないし。
■ぼくもちゃんと引き出せないからなあ。
▼そうかも。しかも、場所に行かないと分かんないことがあるからなあ、あんだけの滑走路とか見ないと実感がわかないし、ただ、押しつけているのだというは分からないといけないことだ、と思う。分かっていなくていいのか、とかさ。考えてあげるんじゃなくて、自分の問題なんだよ、自分の問題としなくても生きていけるんだけども。「考えて欲しい」とは言う気にはならないな、ボク。考えて欲しい、じゃないだろうという気がしてしまうから。こういう話はむづかしい。なんかを犠牲にした上で成り立っている生活だというのはみんなわからないといけないんじゃないかな。みんな搾取してるんだから。もうこの話はやめておこうよ。無理だよ。できないと思う。あーもうわけわかんなくなってきた。趣味で入れるのはいいけど、、、。思ったことを書いたらどう。これは話し合う事じゃないもの。しかも話が一致しないし絶対、こっちもしゃべれないし、日比野さんもよく分かってないと思うし。
■やるんだったら、事実認定の元になる知識を書いた方がいいのかなあという気もする。
▼次へ進みましょう。

……こうやって次の話に移ったんですねえ。沖縄の話は趣味で載せました。他にも省略するに忍びない話もたくさんたくさんあったのですが、載せるのがはばかられる話もたくさんたくさんありました。
恐ろしいですね。怖いですね。
それでは皆さん、さよなら、さよなら、さよなら〜〜。

 

(C)ハヤブサ人生+ひびの まこと

 

ぽこあぽこ12号 掲載テキスト集

このテキストは、「ぽこあぽこ 12号(1999年発行)」に掲載されたテキストをWEB用に掲載したものです。

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