【米国便り8】インターセックス

 サンフランシスコでは、ISNA/北米インターセックスソサイエティ・The Intersex Society of North America(注1)のDavid Iris Cameronさん(注2)のおうちをエミさんと一緒に訪問しました。早口の英語は分からないことも多かったんだけど、私にはインパクトのある訪問でした。

 まず、わたしがバイセクシャリティの会議のために米国に来たと言うと、「バイ」という言葉に反応されました。英語の「Bi」は「2」という意味です。世界には男と女しかいないという性別二元論の枠内の言葉なのです。でここは、「『bisexual』という言葉は、『私たちのコミュニティー』の内部で『レズビアン・ゲイ』によるコミュニティーの私物化に対抗するために有効で必要な言葉だ。でもそれ以上の意味はない」などと私が考えていることを、エミさんが説明してくれました。
 そしてさらに、Same sex marriage(同性婚)に話が進んだ時のこと。Cameronさんはゆっくりとかみしめるように「Oh, same sex !」と繰り返しました。same sex(同性)って、一体誰と誰との関係のことなの?そんな趣旨だと思うのですが、なかなか強烈なインパクトでした。
 余談ですが、「Gay marriage(ゲイの結婚)」という言葉は、「レズビアン・ゲイ・パレード」という名称と同様、Gayによる課題の私物化を意味する言葉です。だって結婚を異性間に限定することで不利益を受けているのはGayだけではないのだから。でも、象徴的で「分かりやすい」ので新聞などでよく使われます。それに対して比較的ニュートラルな言葉として「Same sex marriage(同性婚)」があります。というか、私はこれは比較的ニュートラルだと思ってはいたのですが、そもそも「同性」という概念を持ち込んでいることからして既に、性別二元論に近い言葉なんだと再確認させられました。そうよね、本来のわたしの立ち位置、つまり「男って何?女って何?」「同性って何?」ということにこだわり、「男でも女でもない性別」「X ジェンダー」などと名乗っている私からすれば、本当なら「同性婚」なんて言葉は出てこないはず。なのに、「同性婚」という言葉をあまり気にせずにに使っていたのは、実は私が同性婚問題自体にあんまり関心がない(婚姻制度自体の廃止を主張する立場)からだと思うんですが、いくら関心があまりないこととはいえ、あまり安易に既存の言葉を使うべきではないですね。と少し反省。で、バイコンでも「Gay marriage」という言い方が少し話題になっていて、いま米国では「結婚問題」と言えば何のことを指しているか分かる。だから「結婚問題(marriage issue)」と言えばいいのではないか、それで十分なのではないか、という意見も出ていました。なるほどね。
 さてさらにもう一つ。Cameronさんは、非常に背が高い人で、ぱっと見の外見が男の人です。私にとってインターセックスといえばハッシー(橋本秀雄さん 注3)とエミさんのイメージだったんですが、そのお二人ともふっくら体型のやや性別不詳な印象があります。ですので、クリアに外見が男の人で、かつインターセックスだと明らかにしている人にお会いしたのは初めてでした。
 「インターセックスというのは男でも女でもない人」「インターセックスは第三の性別」だと思ってませんか?(注4)実は私も、エミさんとお話しするまでそう思っていました。なんですが、ほとんどのインターセックスの状態の人は日常を「普通に」男や女として生活しているということを、エミさんには教えてもらいました。言われてみればもっともなんですね。性別、例えば外性器の形だって髪の色や鼻の高さと同じく人によって多様性があるのが当たり前なわけで、いろんな多様性がある中で私たちは「男」や「女」として生きている。中にはごく希に(私みたいに)「X ジェンダー」として「男」でも「女」でもなく生きようとする人もいるけれど、それはインターセックスであるかどうかとは別の事。要するに個人の問題なのね。「インターセックス*だから*第三の性」というのはだから誤解。
 というようなことを筋道として理解はしていたのですが、がしかし。実際にインターセックスだと知っている人がハッシーとエミさんだけという極めて偏った状態の私には、Cameronさんとお会い出来たことは、私の中の変なイメージの修正のためにもよかったです。


:インターセックスについてのサイト(日本語):インターセックス・イニシアティヴ
::http://www.intersexinitiative.org/japan/
:インターセックス・ムーブメント(上記サイトより抜粋引用):
>>
(インターセックス・ムーブメントの批判のポイントは)第一に、性器にナイフを入れられたことなどによって感覚が弱くなり、性生活に問題がでたこと。第二に、繰り返し手術を受けさせられたり医者に興味本位に扱われたこと自体がトラウマになったこと。第三に、情報が与えられなかったことでかえって自分自身がどうなっているのか悩んだり、自尊心を傷つけられたこと。第四に、これだけ重大な手術でありながら、その必要性や有効性や安全性を示すデータは全く存在していないこと。最後に、この種の治療には患者自身の意志が全く反映されておらず、インフォームドコンセントの原則に反すること。
 インターセックス・ムーブメントは、子どもが男児もしくは女児として育てられること自体には反対しませんが、不必要かつ本人の同意を得ない性器形成手術を禁止し、子どもの年齢に応じて可能な限り全ての情報を開示することを主張します。また、インターセックスの子どもを持った親とインターセックスの子どもに対し、カウンセリングや自助グループなど社会的・心理的なサポートを提供するよう要求します。インターセックスの子どもやその親が生きにくいとしたら、それは社会の問題であり、子どもの身体ではなく社会を変えることで「すべての人が生きやすい世の中」を作るべきであると考えます。
<<

●注釈
注1)ISNA・The Intersex Society of North America(英語)
http://www.isna.org/
注2)David Iris Cameronさん(英語)
http://www.isna.org/drupal/node/view/583
注3)ハッシー/橋本秀雄さん(日本語)
http://home3.highway.ne.jp/~pesfis/
注4)「インターセックスというのは男でも女でもない人」「インターセックスは第三の性別」だと思ってませんか?例えばこちらをどうぞ。(英語)
http://www.intersexinitiative.org/articles/letter-outsidein.html

また、上記のISNAのサイトにも、トップページに以下のような記載があります。
・ Intersexuality is basically a problem of stigma and trauma, not gender.
(インターセックスのことは基本としてスティグマとトラウマの問題であって、ジェンダーの問題ではない)
・All children should be assigned as boy or girl, without early surger.
(全ての子どもは、早期の手術を受けることなしに、男児もしくは女児としての性別を割り振られるべきだ)

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投稿者 hippie : 2004年8月21日 22:34 | トラックバック
コメント

Cameronさんが「same sex」 と繰り返したというくだり、自然に発せられた言葉だと思いますが、ウケてしまいました。私も何気なく使っていた「同性婚」という言葉も、性はグラデーションがあるのが当たり前の人には不思議に感じられるということがとってもおもしろいです。おこられちゃうかな、つまり、違うってこういうことなんだというのが、すとんとくる。ひびのさんのエッセーはこういうことを拾ってくれるからいいです。

Posted by: 須田まき : 2004年9月13日 00:23

実はこの【米国便り】は、いつもの論文調ではなく、比較的ラフに書いています。なので、私の性格や癖がよく出ていると同時に、たぶんずいぶんと雑な書き方になっているところもあるはずです。不十分だな、おかしいな、と思ったところがあれば、どんどんご指摘下さいね。(あぁこわい)

Posted by: ひびの まこと : 2004年9月15日 19:20


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