「バイセクシュアルってなんですか?」「バイセクシュアルって本当はレズビアンやゲイなのに、プライドがなくてカムアウトできない人の事じゃないんですか?」など、バイセクシュアルについての素朴な疑問に答えるQ&A。
(97年9月14日に、ゲイ・フロント関西とプロジェクトPとが共催で行った、「第2回男のフェスティバル」における分科会企画「あなた、オカマ、嫌い?」の資料集に収録)
第2回男のフェスティバル参加企画
発行:
発行日:97.9.13
価格:500円
バイセクシュアルについてのQ&A
以下のQ&Aは、「あなた、オカマ、嫌い?」の資料集に掲載したものに加筆訂正した、98年5月段階での最新版です。
現在ゲイ・フロント関西では、性教育のための資料集を作成しつつあり、その原稿としても予定されている文章です。ご批判、ご意見などをお寄せ頂ければ、とても嬉しく思います。
Q0:性的指向というのは、好きになる相手の性別が同性か異性か、ということなんですよね?
Q1:バイセクシュアルってなんですか?
Q2:バイセクシュアル男性とゲイ(バイセクシュアル女性とレズビアン)は違うんですか?
Q3:バイセクシュアルって本当はレズビアンやゲイなのに、プライドがなくてカムアウトできない人の事じゃないんですか?
Q4:バイセクシュアルの人は男の人とも女の人とも同時に付き合う人なんですか?淫乱ですね。
Q5:バイセクシュアルの人って結局は結婚しちゃうんでしょ?(うらやましいなあ。)
Q6:ぼくは以前にバイセクシュアルの人と付き合っていたんだけど、結局最後にはふられてしまいました。それはその人がバイセクシュアルだからふられたんじゃないんですか?
Q7:僕も、私もバイだよ!男とも女ともセックスしたことあるもん。
Q8:なぜ日比野さんは自分のことを「『バイセクシュアル』である」と言ったり「バイセクシュアルではない」と言ったりするんですか?まぎらわしい!
Q9:バイセクシュアルの人はどこにいるんですか?バイセクシュアルのグループはあるんですか?
Q10:なぜゲイバー・レズビアンバーやレズビアンやゲイのサークルに来てバイセクシュアルの話をわざわざするんですか?バイセクシュアルの集まりをつくればいいじゃないですか。
Q11:バイセクシュアルが受ける差別ってなんですか?
Q12:一部のゲイやレズビアンの人が、バイセクシュアルの人を嫌うのはどうしてなのですか?
Q13:海外ではバイセクシュアルはどうしているんですか?
Q0:性的指向というのは、好きになる相手の性別が同性か異性か、ということなんですよね?
人によります。
おそらく多くの人にとっては、相手の性別こそがとても大切な条件であると思います。そういう人たちにとっては、性的指向とは、相手が同性であるか異性であるかという問題になります。しかし、人によっては、相手の性別よりももっと大切な条件があることがあります。例えば、性別を問わず太めの人が好き!という人にとっての性的指向では、相手が太めであるか太めでないかということこそが問題になる訳です。
だから、性的指向とは、「性的な興味の方向性。それは人によっては特定の性別であったり、特定の体型であったり、特定のシチュエーションであったり、本当に様々です。」と答えることになります。
Q1:バイセクシュアルってなんですか?
人を性的な欲望の対象としたり好きになったり愛したりする時に、相手の性別が男でも女でもいい人。または、人を性的な欲望の対象としたり好きになったり愛したりする時に、相手の性別が関係ないか重要ではない人。またはそういう欲望の在り方。日本語では「両性愛(者)」と訳しますが、あまりこの訳語を使う人を私は知りません。
Q2:バイセクシュアル男性とゲイ(バイセクシュアル女性とレズビアン)は違うんですか?
同じところも違うところもあります。
同性であるとみなされる人たちの間で欲望したり親密な関係を持ったりすることが抑圧されている社会の中では、ゲイもバイセクシュアル男性も、レズビアンもバイセクシュアル女性も(そしてヘテロもその他も)、同じように同性であるとみなされる人たちの間で欲望したり親密な関係を持ったりすることが抑圧されます。現実に今の日本では、そのような状況から逃れ、仲間に出会い、自分の持つホモフォビアと闘い、住み易い社会をつくるために、多くのゲイやバイセクシュアル男性やレズビアンやバイセクシュアル女性が、ゲイバー・レズビアンバーやクラブ、サークルなどのゲイやレズビアンのコミュニティー・シーンに集まってきています。ここは、両者の同じところです。
しかし、男女のまたは男でも女でもないバイセクシュアルの場合は、欲望したり親密な関係を持ったりする相手が社会的には「異性である」とされている人の場合もあるので、せっかくたどり着いたゲイやレズビアンのコミュニティー・シーンにおいてすら、受け入れられず嫌な思いをすることがあります。また、場合によっては自分がバイセクシュアルであることを隠して、ゲイやレズビアンのふりをしてゲイやレズビアンのコミュニティー・シーンにいる人もいるかもしれません。ゲイやレズビアンは概してこのようなバイセクシュアルのおかれる状況に無関心なことが多いのですが、ゲイ・レズビアン自身も社会の中で抑圧されていたので、ちゃんと話せば分かってくれることも多いでしょう。
一緒にイベントを行うときなどに、ゲイはもしかしたら「男性オンリー」の、レズビアンは「女性だけの」イベントを打ちたがるかもしれません。このようなときに、男女ミックスの企画をやりたがるバイセクシュアルとの対立になることがあるかもしれません。
Q3:バイセクシュアルって本当はレズビアンやゲイなのに、プライドがなくてカムアウトできない人の事じゃないんですか?
そういう人もいるかもしれません。でもそうでない人もいます。
しかしむしろ私はこのような質問に出会うと、「あなたは本当はゲイなんじゃないの?」などとこの質問のようにうるさく聞かれることによって、相手の性別に関わりなく人を好きになる(または同性も異性も好きになる)という事実に自信をもてなくさせられている人がいるんじゃないか、そのことの方が心配です。
Q4:バイセクシュアルの人は男の人とも女の人とも同時に付き合う人なんですか?淫乱ですね。
そうなりたいものです。多くの男性/女性/その他と同時に付き合ったりセックスしたら楽しいだろうなあと私は思います。
しかし、そういうことと「バイセクシュアルである」ということは全く関係ありません。同時に1人の人と付き合う人も、同時に複数の人と付き合う人もいるという事実は、レズビアン/ゲイ/バイ/ヘテロ/その他を問わずみられる事実です。
また、ある時期は男性と付き合い、ある時期は女性と付き合うという人もいます。だから傍目にはその人はヘテロに見える時期とゲイやレズビアンに見える時期があるということですが、本人は自分のことをバイセクシュアルであると思っている場合もあり、勝手にそう決めつけるのは失礼ですね。(人によっては「私の性的指向は時期によって変わるの」などと考えている場合もあります。)本当に他人のことは、なかなか分からないものです。
Q5:バイセクシュアルの人って結局は結婚しちゃうんでしょ?(うらやましいなあ。)
そういう人もいます。
しかし、性的指向と結婚することには関係がありません。バイセクシュアル男性の中にも女性と結婚する人もいますし、ゲイの中にも女性と結婚するというライフスタイルを選択する人もいます。
えっ、「ゲイは好きで結婚するわけではない」ですって !? 。ヘテロの場合でも「世間体のため」といったゲイがいやいや結婚する(させられる)のと同じ理由で結婚する(させられる)人もいます。ゲイなら「私はゲイだから結婚しない」と言えば周囲に結婚を諦めさせやすくていいじゃないですか。ヘテロとかバイセクシュアルの場合はなまじっか異性の人と付き合うこともあるもんだから、「付き合うんだったら結婚もできるでしょ」といわれたりして拒否するのが大変。
また、女性の場合は特に、性的指向に関わりなく、食いぶち(仕事・セックスワーク)として結婚する人が本当にたくさんいます。だって社会には女性が働けるまともな仕事が少ないのよ。
ようするにこの質問は、強制異性愛の制度の中で何とかごまかしてでも受け入れられたいという欲望の代理表現ですね。そんなこと諦めなさい!往生際が悪いわよ。私は結婚したいと思わないし、誰かが求めてきてもするつもりも(今は)ありません。(おっと、不法滞在の外国人労働者が国内に滞在できるようにするための戸籍貸しとしての結婚だったら検討してもいいわよ)。わたしは、結婚・戸籍制度はきっぱり廃止すべきだと思っています。
で、それくらい強気で生きるためには、結婚制度にかわるお互いの生活を支える助け合いのネットワークが必要だと思います。だから、コミュニティーという場やコミュニティーで出会う人たちとの人間関係を大切にしましょう。
Q6:ぼくは以前にバイセクシュアルの人と付き合っていたんだけど、結局最後にはふられてしまいました。それはその人がバイセクシュアルだからふられたんじゃないんですか?
違います。
もし例えばあなたがゲイで、あなたの恋人がバイセクシュアル男性で、彼が最終的にあなたを捨てて他の女の人と結婚したとします。彼はほんとはあなたのことが好きであったにも関わらず、周りの圧力に負けてそうしたという場合なら、それは彼がバイセクシュアル男性だったからではなく、彼が根性なしだったから(または、周りの圧力が強すぎたから)に過ぎません。もし彼がバイセクシュアル男性ではなくゲイだったとしても、彼は周りの圧力に負けて好きでもない女の人と結婚したでしょう。そういう生き方をした/させられたゲイやバイセクシュアル男性はこれまでも今でもたくさんいます。第一に悪いのは結婚させられた彼–もしかしたら将来のあなたかもしれない–ではなく、彼にそうさせた社会の方です。バイセクシュアルの人一般を恨むのは筋違いです。また、もしあなたがその彼にふられて、彼が別の女の人を好きになって結婚した場合なら、それは単にあなたがふられただけです。彼がバイセクシュアル男性だからあなたがふられたのではありません。彼がゲイであったとしても、彼は新しい男の人を選択して、あなたはふられたでしょう。
ただし確かに、「やっぱりいずれはみんな異性と結婚しないといけないんだ」などどいうふざけたことを言うプライドのないバイセクシュアル男性もいます。しかしそれは、そういうことを言うゲイがいるということと同じことです。自分に自信がもてない人は性的指向を問わずどこにでもいて、私たちが自分自身のホモフォビアと闘おうとするときに弱気になることがあります。しかし、そういう状況に強制異性愛社会によって追いつめられている人を責めるよりも、誰もが弱気にならないで、少しでも理不尽な圧力に対抗できるようになるように勇気と自信がもてるように、励ましあいたいものです。
Q7:僕も、私もバイだよ!男とも女ともセックスしたことあるもん。
おめでとう!これであなたもお仲間ね。
性的指向は基本的に自己申告です。どこかの公正な中立機関が「本当はあなたは○○である」と決定して教えてくれるということはありません。あなたは、あなたの名乗ったその人になるのです。
ただ一つ覚えておいて欲しいのは、男性とも女性とも単にセックスをしたことがある人を皆バイセクシュアルと呼ぶわけではないということです。いろいろやってみてから初めて「やっぱり私はゲイ(レズビアン)だわ」「やっぱりぼくはバイセクシュアルだ」という確信を持つに至る人もいます。また性的指向は必ずしも不変ではなく、あるときを境に急に「わたしは○○だ」思う人もいます。
また、性的指向はグラデーションだという考え方もあります。つまり、100%のゲイやレズビアン、100%のヘテロはそういるわけではなく、全ての人には同性に引かれる部分と異性に引かれる部分があり、その2つの割合の問題でしかないという考え方です。割合は必ずしも一生を通して不変である訳ではないとも言えるでしょう。
Q8:なぜ日比野さんは自分のことを「『バイセクシュアル』である」と言ったり「バイセクシュアルではない」と言ったりするんですか?まぎらわしい!
私があなたに伝えたいことは「両性を好きになる人もいる」ということではなく、「全ての人にとって、相手が男であるか女であるかという意味での、性別が第一の関心事であるわけではない」ということだからです。
人は異性だけを性的な欲望の対象としたり好きになったり愛したりする、という常識が社会に蔓延していた中で、その常識(これを強制異性愛といいます)に異議を申し立てるために、性的指向 (sexual orientation)という考え方がつくられました。これはつまり、人の性的な指向性は様々であり、場合によってはその対象が同性であったり(レズビアン・ゲイ)異性であったり(ヘテロ)両性であったり(バイセクシュアル)するに過ぎないということを示しています。しかしこれだけではまだ不十分です。性的な指向性は何も「性別 (sex,gender)」に限らないという事実にも目を向けるべきです。人によっては、例えば「人に縛られるという事実」や「ラバーを着て侮蔑したり踏んでくれたりするプレイをしてくれること」ということの方が相手の性別より重要だ、という人もいます。性的な魅力はなにも性別だけによるものではなく、場合や人によっては、特定のしぐさや関係の在り方、もの、シチュエーションなど本当に様々です。また、インターセックスやトランスジェンダーの存在などを考えれば、これまで一般的に考えられてきた「男/女」の枠組みに入りきらない人たちもたくさんいます。「男か女か」という意味での相手の性別こそが重要だ、という人は多いかもしれませんが、その都合を全ての人に当てはめるのはやりすぎです。(sexual orientationという言葉が英語圏でどういう意味で使われているかということ以上に)「性別」指向ではなく「性的」指向なのですから、「あなたは男性と女性のどちらが好きですか」という意味で性的指向という言葉を使うべきではありません。
英語の「bi(バイ)」という言葉はは「2つ(two,twice,double)」という意味で、バイセクシュアル(bisexual)とは「男女の2つの性を指向する」という意味の言葉です。「バイセクシュアル」という言葉は、「相手の性別こそが重要」であるレズビアン/ゲイ/ヘテロの人が、自分の価値観の中で他者を位置づけた場合の言い方です。)。しかし大事なのは、「性別こそが問題である人たち(レズビアン/ゲイ/ヘテロ)の価値観を押しつけないで」ということなので、「わたしはバイセクシュアル男性ではない」と言うことがあるのです。
以上をふまえた上で、私は自分の性的指向を「きれいな肌フェチの若専・性別はあまり関係ない」と言っていたこともあります。
Q9:バイセクシュアルの人はどこにいるんですか?バイセクシュアルのグループはあるんですか?
どこにでもいます。職場、学校、街頭、そしてゲイバー・レズビアンバーやクラブ、ゲイサークル・レズビアンサークルなど、ありとあらゆるところに既にいます(いるはずだし、そう考えておいた方が無難です)。また、バイセクシュアルの人が積極的に活動しているサークルもたくさんあります。
日本国内に現在はバイセクシュアルのグループがあるのを私は知りません。数年前には「ウィミンズ・バイネット」というバイセクシュアル女性中心のグループがありました。
Q10:なぜゲイバー・レズビアンバーやレズビアンやゲイのサークルに来てバイセクシュアルの話をわざわざするんですか?バイセクシュアルの集まりをつくればいいじゃないですか。
「どうして俺の前でオカマの話なんかするんだ?」「別にのホモの人を差別する気はないけどぼくの前ではそのへなへなしたしぐさはやめてくれないかなあ。気持ち悪いよ。そういうのはどっかそういう専門のところにいってやってよ」などといわれたことはありませんでしたか?そういわれたらどう思いますか?それと同じことです。
バイセクシュアルの存在は、ゲイやレズビアンが社会に突きつけている主張や要求を自分たちのこととして振り返る契機になります。「私たち」はヘテロ社会の何を問題にしたいのか。大事なことは、関心も利害関係も異なる少数派とちゃんと時間を割いてコミュニケーションすること、その人たちのために場所を空けること、それをどれくらいちゃんとできるかということなのです。ゲイやレズビアンは、バイセクシュアルに対してはマジョリティー、権力を持っている側であることについての自覚が必要です。
Q11:バイセクシュアルが受ける差別ってなんですか?
まず、ゲイ・レズビアンの受ける差別全てです。
それに加えて、ゲイやレズビアンのコミュニティー・シーンの中で受ける差別があります。細かく言えば例えば上のQ3、Q4、Q5、Q6、Q10のような質問もそうです。一つ一つのダメージは少なくても、それが積み重なることによって大きな力関係がつくられてしまいます。
男女の明確な2分法を前提とした性別を、過剰に重要視している(ということにすら気がついていない)社会のうっとうしさについては、もしかしたらインターセックスyトランスジェンダー(の一部)の人と共通するところがあるかもしれません。
Q12:一部のゲイやレズビアンの人が、バイセクシュアルの人を嫌うのはどうしてなのですか?
現状においてバイフォビア(バイセクシュアルに対する嫌悪感)には三つの理由が考えられます。
まず一つ。レズビアンやゲイの中には、異性を好きになって当然!という社会の強烈な刷り込みのせいで、何とかして自分をそのように作り替えようとして無理に異性と付き合ってみる人もたくさんいます。付き合うだけではなく、以前では、(偽装)結婚をして(させられて)しまうことも希ではありませんでした。そういう状態の人たちが、「自分は結婚のできないホモやレズとは違ってまだましな、正常に近い存在なんだ」ということを言うために自分のことを「私は同性愛者ではない。バイセクシュアルである」と名乗ることも多かったようです。また、現在では一見平気そうにレズビアンやゲイを名乗っている人の中にも、始めのうちは自分のことを「レズビアン」「ゲイ」などと名乗ることができず、便宜的に「バイセクシュアル」を名乗っていた人もたくさんいます。「バイセクシュアルって、本当は同性の方が好きなのに、勇気やプライドがなくてレズビアン・ゲイと名乗れない人たち」「バイセクシュアルは結局最後は異性と結婚してしまう」「バイセクシュアルとは同性愛者を名乗ることができるようになるための過程」というイメージができあがったのはそういう理由でしょう。レズビアン・ゲイの一部には、このようなバイセクシュアルに対する否定的イメージを絶対化・一般化して、「同性愛者ではないが同性にも好きな人がいる」というなバイセクシュアルに実際に目の前に出会っても、「性別が関係ないとかごちゃごちゃ言って自分が同性愛者であることを認めたくないだけに違いない」という過去の自分の経験と実感を根拠にした決めつけで、それを認めることができない場合があるようです。しかしこれは、同性愛に対して「大人になればいずれは直る」と思っている一部の異性愛者と全く同じ過ちを行っています。
二つ目。一部のレズビアン・ゲイの中には、「同性を好きになる」という自分の在り方に自信を持ちたいがために性別や性別指向にのみ関心を集中させ常に優先したがり、性的指向に性別が関係ないかまたはその優先順位が低い人の存在と主張をかえりみない(それどころか時には弾圧する)ことがあります。特に「性的指向に、男女の性別が関係ないかまたはその優先順位が低い人」の場合、レズビアン・ゲイ・同性愛者・バイセクシュアル、などといった分かり易い(ということはつまり嘘の多い)アイデンティティーを引き受けること自体を拒否し、「若専」とか「贅肉愛者」などという趣味としてのカムアウトしか意図的にしないこともあります。そして又こういうあり方こそが、性別指向にこだわりすべてを性別指向で語ろうという人を刺激するようです。しかし「相手の性別こそが重要」という人は世の中の全体ではなく、たしかに多数派ではあるがしかし一部分でしかありません。同性を指向する人の存在に対し無関心な異性愛者も、性別が性的指向に関係ないかあまり重要ではない人の存在に無関心で敬意を払わない同性愛者も、他者の存在に関心を示すことが難しいという点では一緒です。
いずれのバイフォビアも、もとをたどれば強制異性愛があまりに強烈であるということが原因の一つであることを考えれば、本当は同性愛者とバイセクシュアルとの共闘の可能性があるのにねえ。
そして最後に、特にゲイのコミュニティーにおけるバイセクシュアル嫌悪は、性的指向を問わずに多くの男性が抱えている女性蔑視(ミソジニー)の反映であることがあります。「女なんかうっとうしい」というマッチョなゲイのわがままは、常にミックスの場を創ろうとするバイセクシュアルや、オネエのゲイなどに対するコミュニティー内の抑圧を創り出すことがあります。そして、この構図の裏返しとして、「男の影を引きずる」バイセクシュアル女性に対するレズビアンのコミュニティーにおける抑圧もまた、あります。
Q13:海外ではバイセクシュアルはどうしているんですか?
アメリカ合州国などには各地にバイセクシュアルのグループがあります。今年98年の4月には「第5回国際バイセクシュアリティ会議(5th International Conference on Bisexuality)」がボストンで開催され、910名の参加がありました。また、おそらく世界で最大のセクシュアルマイノリティーの組織である「国際レズビアンゲイ連盟(International Lesbian Gay Association、通称ILGA)には、世界70ヶ国以上から300を越える、レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーの団体が正式に加盟しています。
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