集会で発言するひびの

クィアなパレスチナ連帯とレインボーフラッグ

2/10(土)以降、「イスラエルはジェノサイドをやめろ 京都」デモに、レインボーフラッグを持ち込むことについて、いろいろと話題になりました。結論だけを言えば、主催者もレインボーフラッグの持ち込みを禁止していません。加えて、以下の要請書に答えて、デモ主催者として、「LGBTなどセクシュアルマイノリティへの差別を許さない」ということを、明確に表明しています。
ただ同時に、これまでも、私を含めこの京都のデモには多くのクィアが参加していますが、レインボーフラッグが持ち込まれたことは、(私の記憶する限りでは)ありません
その辺りのことを、2/24(土)のデモ前の集会で発言しました。
発言の映像は以下の通りです。

ただ、やはり短い時間では充分に言いたいことを伝えられたか不安もあり、少し補足した発言原稿を掲載します。


ひびのまことです。
京都で、20年ほど、性的マイノリティーの権利のための運動をしています。
いまは関西クィア映画祭をしています。
今日は、パレスチナのクィアについて話す時のこと、それからレインボーフラッグについて、少しお話しさせて頂きます。

「パレスチナは怖いところ」なのか

まず
「パレスチナで、レズビアンが殺された」
「パレスチナでは、同性愛者が差別されている」
聞いたことはありませんか。
ありますよね。
パレスチナは、クィアやセクマイにとって怖いところだって。

ではこれはどうでしょう。
「ニューヨークで、レズビアンカップルが他殺死体で発見された」
「米国では、2021年には、少なくとも59人のトランスジェンダーが殺害された」
「LGBTQ+のレインボー・フラッグ掲げた店主を射殺、米カリフォルニア州」

どちらも事実です。事実なんですが、イメージがずいぶん違います。
パレスチナはゲイが殺される怖い国だ、というイメージがある一方
米国がまるで「LGBTの人権大国」であるかのようなイメージがある。
いったいなぜか。

それが今日、お話ししたいことです。

ソドミー法を持ち込んだ植民地主義者

そもそもパレスチナ問題は植民地主義の話ですが、ゲイの話をする場合にも、大元には、実は植民地主義があります。
パレスチナに限らず、中東やアフリカ諸国の、同性愛が違法になっている国があります。欧米は、それらの国を「人権で遅れた国」とか言います。
でも、少なくともソドミー法などは、アラブやパレスチナの文化にもともとあった訳じゃない。
当時の植民者だったイギリス人やフランス人が、植民地にソドミー法を持ち込んで、同性愛を犯罪化したんです。
パレスチナのクィアたちの権利のことを考えるのなら、まず初めに、このように植民地主義者たちがしてきたことを問題にしなくてはいけない。
本当にこのことを肝に銘じたい。
もちろんパレスチナ社会も、日本や米国や欧州と同じように問題はたくさんある。でも、少なくとも欧米は、パレスチナ社会の問題点をあげつらう前に、まず自分たちの責任を自覚しろ!と私は言いたい。

対象者に自身のコミュニティを侮蔑することを強いる

パレスチナにも、クィアのグループはあります。
そうです。もちろんパレスチナにもクィアたちはいます。

例えば、Instagramで流れている「Queers in Palestine」というのがあります。
https://www.instagram.com/queersinpalestine/

また、パレスチナのクィアたちのグループal-Qawsというのがあります。
http://www.alqaws.org/

その団体al-Qawsのディレクターの、ハニーン・マイキーさんがロンドンに来た時の講演の映像を、関西クィア映画祭で上映しました。

その講演の中では、

●レインボーやパレード、お祝いしているゲイ男性など、西洋の受け売りは、パレスチナのクィアには役に立たない
●西洋の概念は私たちに無用

などの発言もありましたが
私が一番はっとさせられたのは、

「救済者」は自分に誰かを救う能力があると証明するために
対象者に 自身のコミュニティを侮蔑させる必要がある

という発言でした。
ひどい目に遭っているカワイソウなパレスチナのクィアたち
そのクィアたちを「人権先進国イスラエルの、西洋の」人たちが、「日本の私たちが」救ってあげる、という物語のために
パレスチナのクィアたち自身に、パレスチナ社会やイスラム教を、つまり自分たちのコミュニティーを、自分自身で侮蔑したり否定することを強いられている
と言っているんです。

確かにパレスチナ社会にもセクマイ差別はありますが、同様に米国では本当に多数のセクマイが実際に殺されていますし、日本でも自死に追い込まれる人たちがいます。それぞれの社会のあり方は変わらないといけませんし、それぞれの場での取り組みが行われています。
でも、
「米国ではLGBTがたくさん殺されていて大変だ、同性愛差別社会だから、そんな国には住めないよね」とはいちいち言われません。なのに、パレスチナについて語るときには、「パレスチナが同性愛差別だ」と常に非難されます。

そうやって、同性愛差別を理由にパレスチナ社会を非難する人たちのあり方には、西洋の植民地主義的な発想や、イスラム教嫌悪的なものがあるのではないか、と、パレスチナのクィアな活動家にも指摘されているんです。

イスラエルの実態

そして実際、「人権先進国イスラエル」なんて、真っ赤な嘘なんです。
何より、いま行われている大虐殺を見ればそれは明らかですが、「ゲイの権利」の文脈でもそうなんです。
イスラエル政府は、「おまえが同性愛者だとバラすぞ」と脅して、パレスチナ人のクィアたちに、密告者になるように強いている、と聞いたことがあります。
これがイスラエルがやっていることです。
これの一体どこが「LGBTの擁護者」なんだ。
絶対に許せない。

もう一つ。
2015年、エルサレムのプライドパレードで、参加者の16歳の少女が刺されて死亡した事件もありました。
また「エルサレム過激派、レズビアンカップル経営のレストランを破壊」というニュースもあります。
米国もそうですが、「イスラエルには差別がない」「イスラエルは安全」なんて事は全くないんです。

それは二重の罠

私たちが日本でパレスチナのことを話すとき、いつも「パレスチナは同性愛差別的だ」という言い方がくっついてきます。
これは二重の罠なんです。

●まずそれは、イスラエルによる暴力、占領や虐殺から目をそらす効果があります。
日本にもクィアへの差別があり、もちろん左派の中にもクィアへの差別があります。そういった差別に反対しようという日本の良心的な人たちの目を、「パレスチナは同性愛差別的だ」と言うことで、イスラエルの暴力からそらす効果があります。イスラエル政府のあり方に明確に抗議することを躊躇させるフックになってしまいます。

●しかし同時に、「イスラエルの暴力から目をそらす効果がある」と言わせることで、いまここでの、日本の社会や左派の中でのクィア差別との闘いは後回しになってもいい、後回しでも仕方ない、と思わせる効果もあります。

私たち日本のクィアが闘わなければいけないのは、まず「イスラエル政府による大虐殺、封鎖、占領に明確に反対すること」。
そして「日本社会の、日本の社会運動の中の、クィアやLGBTへの差別に反対すること」です。

イスラエルのレインボーフラッグ

最後に、レインボーフラッグのことをお話しします。
私は、この場にレインボーフラッグを持ってきたことはありません。
パレスチナのクィアに連帯しようと思うクィアの活動家は、【他によっぽどの理由がない限り】レインボーフラッグは持ってこないと思います。
なぜでしょうか。

私がパレスチナとイスラエルに行った時のことをお話しします。
2002年に、非暴力直接行動を掲げるISMの活動に参加して、私はバラータ難民キャンプに行きました。
▶特集ページ https://barairo.net/special/palestine/

その時も、イスラエル軍はパレスチナに軍事侵攻し、大きな被害が出ていました。外国人がそこにいるだけで、イスラエル軍が発砲しにくい、だから人間の盾としてパレスチナに行こう、みたいな活動です。
そしてちょうどその頃、テルアビブでプライドパレードがあったので、そちらにも参加しました。その時の写真がこちらです。

■カラフルなレインボーフラッグ
カラフルなレインボーフラッグ

■イスラエル国旗とレインボーフラッグを掲げるパレード
レインボーフラッグと共に掲げられるイスラエル国旗

レインボーフラッグと共に掲げられるイスラエル国旗

■右手にイスラエル国旗とレインボーフラッグを掲げる参加者
イスラエル国旗とレインボーフラッグを掲げる参加者

ご覧の通り、テルアビブのプライドパレードには、レインボーフラッグと共に、イスラエル国旗が掲げられています。
参加者には、レインボーフラッグだけでなく、イスラエル国旗を持ってパレードに来ている人もいます。
なんとおぞましいことか。

その時軍事侵攻されていた西岸地区の難民キャンプと、パレード開催のテルアビブとは、自動車でなら1時間とかせいぜい2時間とか、それくらいしか離れていません。
もちろんLGBTの権利は大切ですが、すぐ近くで軍事侵攻が、占領が行われている時に行われるイスラエルのパレードは、占領という植民地主義者たちの暴力を不可視化するイベントになってしまっていました。
究極のピンクウォッシュって感じですね。

だからこそ、そんなすぐ近くでイスラエル軍が軍事侵攻をしている時に、カラフルなお祭りとは一体何事ですかと、そう抗議するクィアたち(ブラックランドリー)もいました。
▶ブラックランドリーについて

その抗議では、グレーの、レインボーフラッグを白黒コピーした旗が使われていました。

白黒のレインボーフラッグ

グレーのフラッグと黒色で着飾った人たちが、占領を不可視化するカラフルなフラッグとプライドパレードに、パレードに参加しながら抗議をしていました。
▶写真集 https://barairo.net/special/palestine/photo/blacklaundry/
上記写真集から、2枚だけここに載せておきます。

ブラックランドリーの人たち

ブラックランドリーの人たち

それから、これは、最近の、イスラエル政府の公式Twitterです。

■イスラエル政府の公式Xツイート

つまり、イスラエルでは、レインボーフラッグは、侵略者や植民地主義者が積極的に使う旗になってしまっている。

今日のお話の初めに言いました。
西洋のやり方をパレスチナに押し付けるようなことをしてはいけない。
私たちがパレスチナのクィアの権利を考えるなら、まず、私たち自身が植民地主義に反対しないといけない。
だからこそ、私たちが、日本のクィアもパレスチナのクィアに連帯すると言う時には、安易にカラフルなレインボーフラッグを振ればいい訳ではないんです。ただ単にレインボーフラッグを振ることでは、パレスチナのクィアに連帯している事にはならないんです。

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ただそれと同時に、私にとっては、私たちにとっては、レインボーフラッグは、大切な旗であるという側面もあります。
なぜなら、いまも、日本にも、セクマイ差別があるからです。
私はさっき、【他によっぽどの理由がない限り】レインボーフラッグは持ってこないと言いました。
その【よっぽどのこと】とは何か。

それは、いまこの場に、クィアへの差別、LGBT差別があって闘わなければならないような場合です。
クィアやLGBTの話は遠慮して欲しいとか、そんな話は別のところでやってくれとか、そういう文脈から「レインボーフラッグは持ち込むな」などという主張が公然となされてしまうような場合です。
私の暮らすこの京都で行われるデモで、そのデモにクィアやLGBTへの差別があるということは、受け容れることは出来ない。わたしたち自身の権利の問題だからです。

前回の集会で、デモ主催者の方が「イスラム教には同性愛への禁忌がある」と発言されました。
そのような認識では困ります。もしあえてわざわざそこに触れるのであれば「差別がある」と言うほかありません。
だからこそ、世界中で、ムスリムのクィアやLGBTたちは、自分たちの社会を変えようと頑張っています。
そしてそれは、私がいまここで、京都の中の、左派の活動の中のクィア差別やLGBT差別をなくそうと訴えているのと、同じ事です。
クィアやLGBTへの差別は、日本にも、日本の左派の中にも、残念ながらあるんです。
だからこそ、デモに参加されている皆さんにも、ぜひ、クィアやLGBTへの差別にも反対して欲しいです。
この場が「イスラエルの虐殺と占領に反対すること/パレスチナに連帯すること」と「クィアやセクマイの権利を支持すること」との二者択一を迫る場になってはならない。そのために、共に頑張っていきましょう。

私は、京都に暮らすクィアの1人として、
クィアなパレスチナ人を含む、全てのパレスチナの人の命と権利のために、声を挙げていきたいと思います。
今すぐ停戦を!
封鎖と占領をやめよ。
Stop Genocide!
Free! Free! Palestine!
No Pride in the Occupation!

ありがとうございます。

この件に関連し
デモの主催者に、1つだけ要請があります。

(発話者交代)

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要請書
デモ主催者として、「LGBTなどセクシュアルマイノリティへの差別を許さない」ということを、明確に表明して下さい。
2月24日
名前連名
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なお、上記要請を受けての、デモ主催者の返答は以下。
「それを受け容れて明確に表明したいと思います。差別は許さない。その立場で、パレスチナと連帯を続けていきたいと思います」


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