政党との関係について
mixiなどネット上で、尾辻かな子さんがパレードの事務局長をしていることへの否定的な言及がかなり見られます。しかしその意見の多くには、私は賛成できません。
例えば尾辻さんが社民党や「みどりの会議」との関係を持っているということを問題視する人がおられますが、パレードや実行委員会には、その人の思想信条や所属団体に関わらず、誰でも参加できるのが当然だと私は思います。右翼であっても、左翼であっても、宗教団体に参加している人であっても、誰であっても対等に、パレードや実行委員会には参加できるべきです。性的少数者にはいろいろな考え方の人がいるわけですから、パレードにも実行委員会にもいろいろな考え方の人がいることは、喜ぶことではあっても、いかなる問題もありません。
特定の政治家が事務局長として対外的に露出するということですが、今回のパレードで問題があるのは、その事務局長という役職の選出過程が密室政治だったということだけです。もし実行委員会が公開された民主的な形で開催され、話し合いのための時間も十分確保され、異なる意見のやりとりを踏まえての結論なら、その実行委員会が特定の政治家を事務局長や代表に選ぶということには、何の問題もないでしょう。
今回のパレードは、議員としての尾辻さんの選挙のために利用されたものなのか。少なくともこれまでの実行委員会に参加してきた私の印象では、そういう認識には同意できません。例えばパレードのパンフレットがまるで尾辻さんの宣伝パンフであったりしたら「尾辻さんがパレードを利用している」とも言えるでしょう。そもそもパレード当日の式次第でも、尾辻さんの挨拶は予定されていません。
確かに議員というのは社会的な権力を持っています。ですので「パレードが議員によって介入されること」を警戒したり、議員によるパレードの私物化が行われないように監視をすることは、大切なことです。もし仮に、今後、パレードの実行委員たちが尾辻さんの選挙運動に一斉動員されたり、尾辻さんの選挙を支援することが当然であるかのような雰囲気がパレードで創り出されたり、もしくは尾辻さんを批判する人が実行委員会やパレードに居づらくなったりすれば、「議員によるパレードの私物化」として大きな問題になるでしょう。
確かに、現在の実行委員会のあり方には危惧がないわけではありません。例えば会議中の発言時間の半分以上が尾辻さんの発言であるというような現状は、今後は改めていった方がいいのも事実でしょう。現状がベストではないことは誰もが認めることだとは思いますので、「尾辻さんのパレード」ではなく「みんなのパレード」を創るために、今後はもっと多くの人が実行委員会に参加し、積極的に関わっていくことが大切だと思います。
大切なのは、尾辻さん(やそれ以外の議員)に対しても是々非々で対応すること、尾辻さんに対する批判があれば自由にそれを公の場で述べてもいいような雰囲気をパレードの内外で創ること、尾辻さんを支持しない性的少数者も存在することを隠蔽しないこと、などだと私は思います。
「大事なことはみんなで決める」
私が、政治家としての(現在の)尾辻かな子さんを支持できないと考える理由は、だから上記のようなものではありません。
「大事なことはみんなで決める」「生活に影響を与えるような意思決定の場に、当事者が直接参加できるシステムを整えるのは民主主義社会の基本です」これは、尾辻さんのHPに掲載されている尾辻さんの政策の一部です。私は全くその通りだと思います。
問題は、そのように正しい主張を政策集に書いている尾辻さんが、関西に住む性的少数者の生活に大きな影響を与えるパレードを、当事者であっても直接意志決定の場への参加が許されない閉鎖的な形で作ろうとしたことです。
実は2000年にも、今回のパレードと全く同様に閉鎖的な形でパレードをやろうとして、そのことが強い批判を浴び、結局パレードが実現しなかったという出来事がありました。その時も関西のコミュニティーの中に混乱と不信感が創られてしまったのですが、その時の教訓が文章になって残っています。
「パレード準備会」開催にあたっての
事実関係確認のための覚書(抜粋)
2000年5月20日(土)1)少数者の意見に積極的に耳を傾け、異なった意見をもつ他者と向き合い、ていねいな話し合いに基づいたパレードを作る。
2)準備の段階も含めて、パレードに参加する意志のある人は誰も排除しない。
3)特定のコミュニティー・セクシュアリティー・グループの都合が常に優先されるような場にはしない。
4)できるだけ広い範囲の個人や団体に呼びかけるよう積極的な努力をする。
5)開かれた会議以外の場所で一部の人だけで重要なことを決定しない。
6)個人のプライバシーを尊重し、傷つけないよう最大の努力をする。
この2000年の失敗を踏まえて、丁寧に、開かれた民主的なやり方で創られたのが、関西クィア映画祭です。この映画祭は、先にも書いたAさんが呼びかけたものですが、関西の様々なグループや個人にも実行委員会への参加が呼びかけられ、また途中からでも、いつでも誰でも実行委員会に対等なかたちで参加できます。誰に対しても公平なやり方で創られた映画祭は、上下関係のない風通しのいい運営に徹し、今年で2回目を迎え、多くの入場者を得て成功裏に終わっています。
尾辻さんは、この2000年のパレードの失敗も、その失敗を教訓とした関西クィア映画祭の成功も知っていたにも関わらず、あえて同じ間違いをおかしました。2000年の失敗を知らなかった若い共同代表の人たちはともかく、全てを知っていて閉鎖的なパレード運営を選択した尾辻さんの犯した誤りは、極めて深刻だと私は考えています。閉鎖的なやり方をするとコミュニティーの中に混乱と不信が創られること、誰にとっても気持ちいいの公平な企画の作り方もあることを知っていて、あえて閉鎖的で問題のある方法を選択したからです。
社会運動の中のダブルスタンダード(二重基準)
表では「大事なことはみんなで決める」「パレードは、歩く『あなたのもの』」といいことを言いながら、実際には「大事なことは一部の人で決めて、他の人に対してそれを前提として押しつける」というトップダウン型のやり方をする。とても残念なことなのですが、こういうダブルスタンダード(二重基準)は尾辻さんだけの問題ではありません。「人権」「平等」「民主主義」を訴える運動、日本の左派の社会運動の中には、隠れた入会審査があったり、みんなと違う意見を言うことがはばかられたり、運動の内部には民主主義がなかったり、意志決定過程が公開されていないようなものも少なくありません。運動の中に問題やおかしな事があることに気が付いても、「そのことを言ってしまうと、運動自体が壊れて無くなってしまうから」といって運動の中の不正が黙認/容認されてきた面が少なからずあると思います。
つまり、何らかの社会運動に参加するということが、その場にある間違ったことを黙って受け入れるということを意味してしまっている。私は、そういった社会運動の体質を変革することが出来なかったことこそが、日本における社会運動それ自体のもっとも基本的な「信用」を喪失させてきたと認識しています。「人権」とかいっているけど、口だけじゃん。自分にとって都合のいいときだけ「民主主義」って言うんでしょ!
(言い換えると、社会運動を組織する側が、社会運動自体が対外的及び対内的にもっている権力に対して鈍感で、その権力を民主的な手法で監視するシステム構築に失敗してきた、ということ。自身が持っている「ミニ権力」に対する責任をちゃんととってこなかったということ)
尾辻さんにみんなの意見を伝えて
こういう形で尾辻かな子さんに対する批判的見解を明らかにしなくてはならない状況にがあることを、わたしは残念に思います。
尾辻さんは、日本で初めてレズビアンとしてカムアウトした府議会議員でした。尾辻さんのカムアウトによって励まされた人たちが沢山いることは、間違いありません。
一般社会の中においても、性的少数者の運動の現場においても、どちらにおいても男性中心主義/女性差別が幅を効かしているという現実。「男性としての自身が持っている特権」に気が付かない振りをしている無邪気なゲイ男性の活動家が、大きな顔をして「少数派の権利」を云々しているという現実。そんな現実の中で、女性でレズビアンである尾辻さんが登場したことで、尾辻さんに大きな期待を寄せる人が多いであろうということも、よく分かります。
しかし、カムアウト第一号だから、せっかくのレズビアンの議員だからといって、自身の政策集にも反した、民主主義とはほど遠い、トップダウン型のパレードをつくろうとした尾辻さんの行動を甘やかすことは、本人のためにもなりません。
特に、議員としての尾辻さんを支持される方にお願いします。「大事なことはみんなで決める」「生活に影響を与えるような意思決定の場に、当事者が直接参加できるシステムを整えるのは民主主義社会の基本」ーーこういった正しい政策を、まず何より自分が作る企画で、まず関西レインボーパレードにおいて、地道に実践することが大切なんだということを、本人に伝えてあげてください。閉鎖的なパレードの作り方をした事で、コミュニティーに混乱と不信をつくり出したこと自体が間違いだったとまず明確に認めること。そして、一部の人が密室政治でものを決めるのではなく、本当に誰にでも開かれた「みんなで考え、みんなで決めるパレード」をつくる側に、これからは尾辻さんが立ってくれるよう、話をしてみて下さい。
意見の不一致は、私たちの豊かさ
尾辻さんの政治家としてのあり方について、率直に私の意見を書いてみました。もちろん、私とは意見が合わない人もおられるでしょう。しかし「パレード」のいいところは、意見の違う人たちで場を共有できるというところです。
「私たち」の内部にはたくさんの不一致があります。「私たち」の内部の意見の違いは、私たちの多様性であり、私たちの豊かな財産です。これからも、率直に意見交換をしていければと思います。
【全体目次】
サヨナラ、おまかせ民主主義~まず関西レインボーパレードから
開かれた、民主的な、多様性のあふれるパレードを、みんなで創ろう!
■ 関西レインボーパレードの何が問題なのか
●閉鎖的な「立ち上げ時の実行委員会」
●パレードは公的なイベント
●実行委員会内部に序列をつくるのは何故?
■ 尾辻かな子さんについて
●政党との関係について
●「大事なことはみんなで決める」
●社会運動の中のダブルスタンダード(二重基準)
●尾辻さんにみんなの意見を伝えて
●意見の不一致は、私たちの豊かさ
■ サヨナラ、おまかせ民主主義~まず「私たちのパレード」から
●声を上げたから実行委員会は公開された
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