賃金の女性差別をなくそう!

よければあなたも署名を集めてもらえませんか?
京ガスの女性差別賃金裁判に注目と支援を!

 

 

女性とされる人の賃金は男性の約50%

  レズビアン・ゲイ、そしてバイセクシュアルが権利を主張し、インターセックス(間性・半陰陽)が顕在化し、性再指定手術が合法的に行われ、性労働者や障害者が性の自己決定権を主張し、生と性の自己決定権が徐々に確立されつつある現在においても、いまだに「女性とされた人」「女性
1998年の統計。常用労働者(パートタイム労働者を含む)を5人以上雇用する事業所を対象に、全産業を平均した全給与(残業手当・ボーナス含む)の性別月間平均賃金。正確には、女 231.000円、男 451.000円。出典は、労働大臣官房政策調査部統計調査第一課「毎月勤労統計調査」。(*注釈有り)
として生きる人」の置かれる状況には厳しいものがあります。性別役割分業意識は多くの人々の心の中にあり、多くの会社では女男別の制服に象徴されるような性別秩序が幅を利かし、社会的にも性的な暴力があとを絶ちません。女性であることを理由とした雇用の拒否ですらまだまだ少なくありません。企業が女性を正社員として採用せず、パートや派遣といった低賃金形態での雇用しかしないのは、もちろん性別役割分業意識・性差別意識の反映です。日本全体で平均で見たとき、女性労働者の賃金が男性労働者の賃金の約50%であるという事実は、今の社会で女性として生きるということが何を意味するかを端的に示しています。

京ガスでの賃金の女性差別

 (株)京ガスというのは京都府久世郡にある会社で、例えば大阪ガスなどからの依頼でガスの配管工事などを行うガス器具ガス工事の会社です。屋嘉比(やかび)ふみ子さんは1981年に京ガスに入社し、賃金の女性差別を問題として1998年に京都地裁に提訴しています。 
 屋嘉比さんは、京ガスの他部署や同業他社であれば管理職か監督職が行っている業務(コンピューターを使った積算業務)を長年に渡ってひとりで担い、業績を上げてきました。にもかかわらず、屋嘉比さんの賃金は、同期同年齢に近い女性とは同額である一方、男性とは大きな格差のある低額でした。これは、仕事内容や職種の違いによってではなく、実際には性別の違いによって賃金が決められていることを意味します。実際、京ガス側は「男性は全員総合職、女性は全員一般職で処遇しており差別ではない。建設業に女はいらない。女の仕事は男の補助(1994年3月・対職組回答)」との態度を表明し、屋嘉比さんも参加するおんな労働組合との団交の場(1994年11月25日)で「女性は学歴、年齢に関係なく高卒の初任給、男性は妻子を養える生活給を支払う」「一般職の給与は生活給ではない」などと発言しています。これが性別役割分業意識に基づく女性差別以外の何者であるでしょうか。

同一価値労働同一賃金

 この裁判で原告の屋嘉比さんは「同一価値労働同一賃金」という主張をしています。雇用形態や身分が違っていても(パートでも派遣でも正社員でも)同じ仕事なら同じ賃金を(同一労働同一賃金)という従来の運動の主張に留まらず、仕事の内容や職種が違っていても仕事の価値が同じなら同一賃金を、という主張です。例えば人の世話をする仕事は機械を使う仕事より価値が低いとか、手先を使う細かい仕事は力仕事より価値が低いとかいう考え方は性別による偏見だとして、女性として働いている多くの労働者が担っている単調な細かい事務的な仕事や他人の後片づけなどの仕事の価値を正当に評価せよという主張でもあります。「同一価値労働同一賃金」の主張に基づいて女性差別を問題化している屋嘉比さんが勝訴すれば、実は「女性である」ということで仕事内容や職種や雇用形態を分けられ差別されているに過ぎないのに、仕事内容や職種や雇用形態が違うことを口実にして賃金が低く抑えられてきた他の労働者にとっても、大きな朗報になるはずです。

労働現場での地道な闘いこそ必要

  この裁判の主張内容の正しさと先進性も大切ですが、私は屋嘉比さんがあくまで自分の労働現場で地道に原則的に闘いを進めてこられたということにとても感銘を受けました。「私はこんなにひどい目にあった」と嘆き愚痴るだけではなく、自分自身の責任とリスクで表現や主張をし、会社相手に直接闘ってきました。慣行となっていた女性社員によるお茶くみを問題にして一度は止めさせ、指名解雇を受ければそれを撤回させ、会社側の悪質執拗な嫌がらせ(車に生卵をぶつける、数年に渡りバイクの周りに釘を撒く、屋嘉比さんと口を利かないように通達する、など)や仕事の干し上げを受けても主張を曲げず、実際に会社に対して自分自身で直接主張をしつづけ、職場の労働組合にも働きかけた末に委員長までやって声を上げ、他の組合員からの支援を得られないことがはっきりすると今度は自前の労働組合(おんな労働組合)で団交を行い、地方労働委員会(地労委)での闘争(京ガス側は公益委員の和解勧告を拒否。斡旋も拒否)を経て今の裁判に至っています。「女性差別はよくない」などといった正しいことを一般的に言うのは簡単ですが、それを自分の職場で会社相手に発言し、現実の社会関係を変えようとし続けることがどれほど困難で大変なことでしょう。しかし、例えば事業主のセクシャルハラスメントの防止配慮義務が改正男女雇用機会均等法に盛り込まれるようになったのは、こういった現場での地道な闘いの積み重ねがあったからです。現場での闘いは、多くの場合は(特に経済的には)割が合わず、最終的には自己の尊厳(プライド/ pride。例えば「ゲイプライド」)のための闘いになることがほとんどです。そのため裁判までして闘う人はホントにわずかでほとんどの人が泣き寝入りをしているのが現状です。しかしこういった現場での闘いこそが、権利の獲得のためには不可欠です。平等や権利は、天から降ってくるものでも生まれた時からあるものでもなく、闘いによって勝ち取るものなのです。
 屋嘉比さんの闘いは、コース制(一般職/総合職)、職種の違い(監督職/事務職)、雇用形態(パート/派遣/正社員)、性別によって分けられた仕事内容など様々な口実によって女性の賃金が低く抑えられ、賃金平均が男性の約50%であるという極めて重大な女性差別をなくすための闘いであり、新しい社会のあり方を創り出す、夢を実現していく闘いだと私は感じました。また逆に、あまりにも露骨な女性差別発言をする会社であっても、ここで屋嘉比さんが闘うのをあきらめたり万が一敗訴したら、現状が維持されてしまうという現実に、私は愕然とせざるを得ません。

署名にご協力お願いします

 こういった闘いはもっと社会的に関心を持たれるべきだし、逆に女性差別賃金を問題化する闘いが社会的な無関心、「わたしたち」による無関心にさらされるという事実こそが、社会や「わたしたち」の中にある女性差別意識の現れに他ならないと私は思います。「性別欄そのものを廃止するべきではないか」といった議論が当たり前のように出てくる私の生活状況から考えれば、性別役割分業意識に基づいた賃金差別などという話はあまりにもお粗末です。女/男の性別とその二分法を押しつける性別秩序の社会を変える、性の権利を確立するという観点から見ても、賃金の女性差別をなくすということは必要不可欠な事項です。いかなる理由であれ、それがどのような形を取っていたとしても、性による差別を許さない、という観点から、私はこの裁判に注目しています。例えそれが私の利害関係に直接は関係ないとしても、レズビアン・ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、インターセックス、性労働者、障害者といった性的被抑圧者たちの解放を進める運動、性による理不尽な差別を許さないという闘いと同じ思いを、私はこの裁判にも感じています。
 もちろん女性差別賃金は京ガスだけのことではありません。また勝訴したとしても京ガスが控訴・上告すればまた何年も裁判をせねばなりません。この裁判や署名は、その意味でこれからの膨大な闘いの端緒でしかありません。しかも、屋嘉比さんは今日も、裁判の相手であり、いまだに嫌がらせがある京ガスに出社して労働し賃金を得なくてはなりません。裁判所宛の署名などというのはそんな屋嘉比さんの生活を今すぐ直接に改善するものではありません。しかし例えば、東京都知事石原が都の人権指針から「同性愛者の人権」を削除しようとしたことに対して、全国から広範な抗議や意見が集中したために限定的ながら文言が復活したというような事例もないわけではありません。
 京ガス裁判への注目と、支援を!裁判所に提出する署名にご協力お願いします。

 2000年12月15日

日比野 真


(*注)
一般的には、女男の賃金格差は、職種・職階・年齢・勤続年数・学歴・仕事内容・雇用形態などに違いがあるから生じていると思われている。しかし性による差別がないのであれば、全職種・全職階・全年齢・全勤続年数・全学歴・全仕事内容・全雇用形態で働いている労働者全体の賃金の平均を全てまとめて女男別にしたときに、大きな差が出てくることはないはずだ。現実にはここまで大きな格差があるということは、他の様々な理由によるのではなく実際には性別を理由にして賃金格差がつくられていることを示している。この数値はパートタイム労働者を含んでいるが、多くの女性が低賃金で働いているパートタイム労働者を除いた労働者全体の平均をとった場合でも、女 288.000円、男 469.000円(1999年。残業手当・ボーナス含む。労働省「賃金構造基本統計調査」)となり、女性の賃金は男性の61.4%でしかない。これは、仮にフルタイムの正社員であったとしても、事実上性別によって仕事内容や職階などが分けられた結果、女性として扱われる人が低賃金にされていることを示している。
 なおこの統計は労働省のものであり、性別二元論にのっとって「女」「男」の二つの性別のみがことさら強調され「女」「男」以外の性別のあり方を無視しているているのは本来は望ましくないが、他に統計がないので使用した。

 

原告問い合わせ先

京ガス裁判を支援する会として「きりの会」(男女差別賃金はこれっキリの会)というものがあります。連絡先は以下の通りです。

 郵便番号 530-0043
 大阪市北区天満3-5-3 大宝北天満ロイヤルハイツ406号
 おんな労働組合(関西)気付

 tel/fax 06(6354)2270

 E-mail kirinokai@mail.friend.ne.jp

 

 

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