目次

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磯貝宏パレード実行委員の「レズのくせに…」発言に関する要望書

第3回レズビアン・ゲイ・パレード実行委員会
浜中大輔実行委員長 様
磯貝宏実行委員 様

〈事実経過〉
 1996年8月25日、第3回レズビアン・ゲイ・パレードにおけるプライド集会中において、「第3回レズビアン・ゲイ・パレード宣言(案)」が拍手によって採択されようとした時、何人もの参加者から「宣言(案)」の採択に異議が出され討論となりました。その時、採択をめぐる混乱の中で磯貝宏実行委員が、参加者であるOLPのメンバーに対して、「何よあんた、レズのくせに、何しやがるのか」という発言を行ないました。
 この発言をされた参加者が、この発言について明らかにし発言者の意図などを話し合おうと思って、フリートークでの発言の登録のために集会受け付けに行きました。ところが、南定四郎実行委員は「登録しなくていい」などとその場で言って、その参加者の発言の受け付けを拒否しました。
 そのため、この発言は、その後のOLPのグループ紹介の際に初めて明らかにされました。「パレード宣言(案)」の採択をめぐって会場が混乱のただ中にあったとは言え、レズビアン・ゲイ・パレードの実行委員のひとりがこのような発言をしたという事実は、レズビアンをはじめとする参加者たちに大きな衝撃を与えました。それだけではなく、OLPが件の発言に対して磯貝宏実行委員に謝罪を求めたところ、すでに磯貝宏実行委員は会場から姿を消していました。また、残念なことに当日、運営本部がこの発言に関して行ったことは、以下の見解を発表したことだけでした。

 磯貝氏の「レズのくせに何しやがるのか」発言に関する運営本部の見解

 先程OLPの方々から集会開始後の混乱の中で磯貝氏が「レズのくせに何しやがるのか」という発言を行なったことに関する指摘そして糾弾がなされましたが、あの混乱のような公式の日程が中断した場面での発言は、いわば対等な関係の喧嘩であり、磯貝氏が実行委員であろうとなかろうと、実行委員会は何ら責任を負うものではありません。

〈「レズのくせに…」発言について〉
 「レズ」という言葉がレズビアンに対する侮蔑の言葉であると同時に、女性に対しての中傷の言葉として使われることが多くあるのは周知の通りです。私たちは、まず第1に、今回の磯貝宏実行委員の発言はパレードを共に作り上げていく仲間に対する一方的な侮蔑であり、ひいてはレズビアンや女性を侮蔑するものであると考えます。
 私たちは、「レズビアン」に対する理解のない所に「レズビアン」の名が使われるのを黙って見すごすわけにはいきません。この時点で踏みとどまってなんら議論がなされないなら、このパレード自体が内実のない「レズビアン」・ゲイ・パレードであるとしか思えないし、そのような場で「レズビアン」に対する理解のない人々と共に何かを成していくことが出来るとは思えません。これはまったく悲しむべきことです。私たちはコミュニケーションのできる関係を築くためにこそ、パレードを支持し、参加してきたのですから。
 第2に、磯貝宏実行委員は、自分が罵倒した相手の外見が女性に見えたというだけで「レズ」であるとどうして言い切ることができたのでしょうか。OLPやゲイフロント関西の例を出すまでもなく、私たちのコミュニティーにはレズビアン・ゲイ以外のセクシュアル・マイノリティーが多くいることは既に明らかですし、実際、今回のパレードにもレズビアン・ゲイ以外の人たちが多く参加していました。実行委員会が提案した「第3回レズビアン・ゲイ・パレード宣言(案)」上でも「同性愛者」と並んで少なくとも「性的少数者」という言葉が使われていたはずです。まさにセクシュアル・オリエンテーションやジェンダー、あるいはセックス(性別)の問題が問われているはずの場において、同じ場を共有している仲間からこのように無神経なレッテル貼りが行われてしまったことに、私たちは深い悲しみを感じています。このような発言に対しては、パレードの実行委員会としてセクシュアル・マイノリティー同士の連帯をすすめるという観点からも問題にしなければならない事項だと私たちは考えます。
 さらにつけ加えるなら、私たちは、女性であるということでその発言が軽視ないし無視され、時には肉体的暴力の危機を感じさせられることもある今の日本の中で、女性が置かれている立場に思いを馳せることも必要ではないかと思います。そういう状況の中で、パレードに参加した女性に対して威圧的かつ暴力的に、しかも実際に手を振り上げながら罵倒する言葉を浴びせるということが、客観的にどのような意味を持ってしまうかについても、パレードに参加した人々の間で考えることができることを望みます。
 
〈要望の趣旨〉
 まず私たちは、磯貝宏実行委員は、これからもレズビアン・ゲイの運動に関わっていこうと思うのであれば、この件に関して自身で誠実な対応を行うことが必要だと考えます。
 また、私たちは運営本部がパレード当日にとった態度は、責任逃れだと考えます。まず、パレード参加者の発言への登録を認めないという態度は、たとえ意見は異なっていてもパレード参加者がみんなでパレードをつくりあげていく、ということを放棄したものとしか考えられません。これは、プロジェクトP排除問題の時と同じ過ちを繰り返していると私たちは考えます。また、仮にも「レズビアン・ゲイ」と銘打ったパレードの集会の場において、主催者である実行委員が行なった発言であるということだけから見ても、これはきちんと実行委員会で話し合われるべき問題ではないでしょうか。パレードの外で見も知らぬ誰かがレズビアンを侮蔑したときは「差別だ」と問題にして、パレードの中でレズビアンに対する侮蔑があったときはそしらぬふりをするのでは、筋が通りません。
 その上、磯貝宏実行委員は、「日本のレズビアン・ゲイ差別の構造を鋭く抉り出す雑誌ジャーナリズムです」とうたう雑誌『ADON』の編集次長でもあります。『ADON』は実行委員団体である砦出版の出版物で、磯貝宏実行委員は実行委員会席上では個人の実行委員であるほかに、砦出版の代表者としても参加しているのです。このような立場の人物が行なった集会中のあからさまにレズビアンを侮蔑する発言が、実行委員会内部で誠実に協議されることなく不問に付されてしまうことに、私たちは疑問を感じずにはいられません。
 レズビアン・ゲイ・パレードは、すでに、レズビアン・ゲイだけでなく本当に様々なセクシュアリティーや立場や考え方の人々が注目し、参加するものになっています。自分とは異なるセクシュアリティーや立場の人と何かをやろうとするときに、コミュニケーションの不足からお互いの関係に食い違いがうまれることなどは、現実には日常茶飯事です。だからこそ、お互いの出会いの中で明らかになった食い違いを一つづつていねいに解決していくことが、まず大切だと私たちは考えます。そのような経験を繰り返していく中で私たちが自分の無知や無関心に気付き、ゆっくりとではあるけれども確実に変わっていく可能性こそが、様々な人が参加するパレードの最大のメリットのひとつなのではないでしょうか。
 共に積み上げてきたこれまでのパレードの歴史を無駄にしないためにも、また、これからのパレードに歴史を繋いでいくためにも、私たちは重ねて磯貝宏実行委員と第3回レズビアン・ゲイ・パレード実行委員会に対して、磯貝宏実行委員の「レズのくせに…」発言についての誠実な対応を求めたいと思います。

〈要望の内容〉
 私たちは磯貝宏実行委員と第3回レズビアン・ゲイ・パレード実行委員会に対して、以下のことを求めます。

磯貝宏実行委員に対して

  1. .磯貝宏実行委員の行なった「レズのくせに何しやがるのか」発言に関して、OLPとの公開討論の場に出席し、事実経過および見解を表明すること。なお、この公開討論は、磯貝宏実行委員が実行委員であるにも関わらずパレード当日の討論から逃亡したことの責任をとり、大阪で行うこと。
  2. .磯貝宏実行委員の行なった「レズのくせに何しやがるのか」発言に関して、事実経過および見解を表明し、その結果を第3回レズビアン・ゲイ・パレード参加者に広く伝えるために、雑誌・ミニコミ・機関誌など、考えられる限りの有効なメディアを使って報告すること。

第3回レズビアン・ゲイ・パレード実行委員会・浜中大輔実行委員長に対して
  1. . 磯貝宏実行委員の行なった「レズのくせに何しやがるのか」発言に関して、希望する者は誰でも参加できる公式かつ継続的な討論の場を設けること。そして、雑誌・ミニコミ・機関誌など、考えられる限りの有効なメディアを使って第3回レズビアン・ゲイ・パレード参加者に広く参加を呼びかけたうえで、その場でていねいに協議すること。
  2. . 磯貝宏実行委員の行なった「レズのくせに何しやがるのか」発言に関しての事実経過と、それに関して公式かつ継続的な討論の場で協議された結果を、第3回レズビアン・ゲイ・パレードの登録・参加団体/個人に報告すること。
  3. . 磯貝宏実行委員の行なった「レズのくせに何しやがるのか」発言に関しての事実経過と、それに関して公式かつ継続的な討論の場で協議された結果を、第3回レズビアン・ゲイ・パレード参加者に広く伝えるために、雑誌・ミニコミ・機関誌など、考えられる限りの有効なメディアを使って報告すること。

1996年10月22日

呼びかけ団体・個人

私たちは、第3回レズビアン・ゲイ・パレード実行委員会および磯貝宏実行委員に対しての上記の要望書を提出します。と同時に、様々な団体・個人に広く賛同を呼びかけます。

 OLP
 レズビアン?ゲイ?バイ?ヘテロ?......生と性はなんでもありよ!の会 プロジェクトP
 ヒジュラ日本
 ハートショット
 OWN

 田中玲子  日比野真  モモ  Sin   LUKA  トダタカコ  武田美亜  森田真一  橋本秀雄  CHU〜(中東素子)  萩原まみ  麻姑仙女  フジタヒロミ  青樹恭  

(以上・5団体14人)

賛同団体・個人

 私たちは「磯貝宏パレード実行委員の「レズのくせに…」発言に関する要望書」に賛同します。

 ゲイ・フロント関西  札幌ミーティング  大阪ゲイコミュニティー   KICK OUT  腹乳友の会  札幌ほっけの会  スペースへなへな

(賛同して署名いただいた個人のお名前はWEBでは省略しています)

       

(以上・7団体90人)


参考資料

第3回レズビアン&ゲイ・パレードのプライド集会における磯貝宏実行委員の「レズのくせに何しやがるのか」発言に関する証言

 今回のレズビアン・ゲイ・パレードが初めての参加である私は、去年パレードをTVで観ていて、楽しそうで誰もがひとつになっているという、とても良い印象を受けていました。
 それで、今年参加にのぞんだ時、パレードに対し、多くの人々、いろいろな考えやセクシュアリティを持った人々と一緒に楽しくやろうよ、理解しあおうよ、協力しようよ、という気持ちで一杯でした。
 1996年8月25日、滞りなくパレードは終わり、代々木公園に到着して、プライド集会が開かれました。そして、集会の始めに小林運営委員長が「第3回レズビアン・ゲイ・パレード宣言(案)」を読み上げられましたが、OLPの会員になって日が浅く、あまり現状を知らない私はその内容について懸命に耳を傾けていました。そして、「宣言(案)」が小林運営委員長によって読み上げられた後、採択に対する異議の声があがり、次々とパレード参加者たちが壇上に上がり、討論が始まりました。私はきちんとした理由やこの現状について把握したいと思ったので、壇の下まで行き、話を聞こうとしました。その時、磯貝宏実行委員の発言は起こりました。
 
 私の前にひとりの男性が大声で、壇上に向かって何か叫びながらやって来ました。そのため、私は彼が「あなた何してんの、降りなさいよ」と繰り返し続ける声のせいで、壇上で発言している人の話がひどく聞こえにくくなり、また、男性の発言の内容も私にとって罵倒でしかないように感じられました。
 そのため、私はその男性に対して、もう少し声を抑えてもらえないかとお願いしようと考え、声を掛けましたが私の声が聞こえない様子だったので、もう一度声を掛けながら、前にいたそのその男性のショルダーバッグのストラップを軽く引きました。が、そのとたん、振り向きざまに彼は「何よ!何か文句あるの?」と大声で私に向かって威圧するようにまくしたて始めたのです。私は話を返す一瞬の時間も与えられないほどのスピードでまくしたてられたため、驚きで何ひとつ言葉を発することができませんでした。
 そしてそれだけではなく、彼は「レズのくせに何よ!」と手をふりあげそうになり、私につかみかかろうとする気配さえ感じられました。けれど、「殴られる!」と思った瞬間、私の左側でその様子を見ていた女性が「何を言ってるの」と私と彼の間に割って入り、その男性に近づくと、男性はそのままその場を離れてしまったのです。
 やがて壇上の混乱も静まりましたが、私はなぜこの「レズビアン・ゲイ・パレード」に来て「レズ」と言われ罵倒をされたのか、なぜ彼がそういった発言に至ったのかを知りたいと思いました。なぜなら、まず、確かに私は「レズビアン」としてカムアウトしていますが、彼とはそれまで面識もありませんでした。また、仮に彼が私のことをレズビアンだと知っていたとしても、「レズビアン」の名前のついているパレードの集会中に、同じパレード参加者からそのような侮蔑的なことを言われるとは夢にも思っていなかったからです。だからこそ、私は、その発言についてきちんと彼と話し合うこと、お互いを理解することが必要であると感じました。

 そのため、その後の「発言のある方は名前を登録して下さい」という司会の言葉に従い、私はその件について壇上で発言しようと、受け付けへ名前を登録しに行きました。その時、先の男性が受け付けの横に立っていて、私は初めて、彼が単なるパレードの一参加者ではなく、磯貝宏実行委員であることを知りました。
 受け付けに座っている男性2人の横に磯貝宏実行委員は立っていて、私は磯貝宏実行委員と受け付けの人に対して、「先ほどこの方(磯貝宏実行委員)から『レズのくせに』という発言を受けたのですが、私自身なぜそのようなことを言われなければならないのか分からないので、きちんとした話し合いの場が欲しいので、名前を登録させて下さい」と話しました。すると、磯貝宏実行委員は「何よ!私はそんなこと言ってないわよ」と大声を上げました。それが嘘であることは明らかでしたが、私はその時、言った言わないの押し問答になるのは無意味だと思い、しばらく黙っていました。すると、磯貝宏実行委員は、「だって、あなたはレズでしょう?だから私はレズだからレズのくせにって言ったのよ!そんな勝手な言いがかりをつけて、悪口を言い回さないでちょうだい」と続けたのです。
 その時、ちょうど受け付けにいて、その様子を見ていた南定四郎実行委員が私に向かって、「喧嘩するならここでやらないで、あっちに行ってやってよ」と言いました。それを受けて、磯貝宏実行委員も激しい口調で私に「喧嘩するならしましょう。受けて立つわよ!出ましょう!」と言いました。
 また、この時、南定四郎実行委員は「登録しなくてもいい」と受け付けに対し発言されました。
 私は受け付けの人や磯貝宏実行委員、南定四郎実行委員に対して、「私はなぜ磯貝氏がそういうことを言ったのかきちんとした理由が知りたいし、全く喧嘩する気はありません。お話し合いがしたいのです」とつとめて穏やかに返答しました。
 受け付けの係の人は、磯貝宏実行委員と私の間で困った様子でしたが、「OLPの方でしたらOLPとして登録6番目にありますから、そこで一緒に発言させていただくということで…」と提案されました。
 私は個人で発言の時間が欲しくて名前を登録したいから来ているのに、パレード参加者の当然の権利のはずのフリートークでの発言の登録を拒否されたことに不満を持ちながらも、困っている受け付けの人を見ているとそれ以上何も言えず、その提案を受け入れるしかありませんでした。

 その後、OLPのグループ紹介のとき、私は磯貝宏実行委員の「レズのくせに」発言を明らかにし、OLPとして磯貝宏実行委員に謝罪を求めましたが、磯貝宏実行委員はすでに会場からいなくなっていて、かわりに、司会を通して、第3回レズビアン・ゲイ・パレード運営本部から磯貝宏実行委員の発言について以下のような見解が出されました。

 磯貝氏の「レズのくせに何しやがるのか」発言に関する運営本部の見解

 先程OLPの方々から集会開始後の混乱の中で磯貝氏が「レズのくせに何しやがるのか」という発言を行なったことに関する指摘そして糾弾がなされましたが、あの混乱のような公式の日程が中断した場面での発言は、いわば対等な関係の喧嘩であり、磯貝氏が実行委員であろうとなかろうと、実行委員会は何ら責任を負うものではありません。

 私はこの後、上記の運営本部の見解の文書をもらおうと運営本部に行きましたが誰もいない様子だったので、司会の方を通してその文書をもらえるように頼みましたが、結局、文書は手にいれることができませんでした。
 私は磯貝宏実行委員から直接に公の場で「レズのくせに」発言に関する見解を聞き、話し合いをしたかったのに、当事者であるはずの磯貝宏実行委員はプライド集会中に帰ってしまい、運営本部からも誠実な回答がされないまま運営本部から人がいなくなって、この件が当日うやむやに終わってしまったことにどうしても納得が行きません。だから私は、重ねて磯貝宏実行委員本人との話し合いを求めたいと考えています。

  1996年9月5日

OLP会員 もも

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