蔵関第107号
平成12年2月18日 日比野 真 殿
裁決書の謄本について 平成11年12月2日付をもって提起された審査請求について裁決したので、行政不服審査法第42条第1項の規定により、別添のとおり裁決書の謄本を送付します。
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裁決書審査請求人 住所 (住所が変わったので記述を削除しました) 上記審査請求人から平成11年12月2日付をもって提起された関税定率法第21条第3項の規定に基づく通知に係る審査請求について、次のとおり裁決する。 主文 本件審査請求はこれを棄却する。 不服の要旨 大阪税関関西空港税関支署長は、本件審査請求に係る雑誌「MALE」1冊(以下「本件雑誌」という。)を「風俗を害すべき物品」に該当すると認め、関税定率法(以下「法」という。)第21条第3項の規定に基づき通知(平成11年6月19目付「輸入禁制品該当通知書番号第N-033号」。以下「本件通知」という。)を行つた。 (1)「わいせつ」の定義及ぴ「風俗を害する」の文言の意味が不明確であり、「わいせつ物が風俗を害する」という主張の意味が審査請求人には不明である。 (2)税関長はその決定のなかで、「本件雑誌には、男性の性器を鮮明に表現した写真が多数収録されており、わいせつ性を有するものと認められる」としているのみで、本件雑誌の具体的にどの写真のどの範囲が「わいせつ」であり「風俗を害すべき物品と認められる」のか、また個別になぜその写真が「わいせつ物」に該当するのか、その理由が一切述べられていないことから、審査請求人は判断ができず、反論ができない。 (3)税関長は、最高裁判決を根拠として、わいせつ物の流通を規制することは憲 (4)「わいせつ物」自体は性的な暴力やセクハラではなく、被害者がいないのであって、社会的に「わいせつ」といわれるものを見たい人が見ること、販売したい人が販売すること、購入したい人が購入すること等は市民の基本的な権利である。また「わいせつ物」とのレッテルを貼られた物の流通を「公共の福祉」という理由で禁止することは、多数派権力者・国家による価値観の押付けであり、個人の性の自己決定権を奪っている。法制度の観点からいえば、わいせつ物の流通を禁止する法第21条第1項第4号を含むすべての法律は、憲法第13条、第21条、国際人権規約第19条第2項などに照らして、違憲・違法・無効である。 (5)税関長は最高裁判決等を引用しているが、そもそもその判決等こそが誤りであり、本件雑誌に関して、今日においても、旧来の最高裁判決等を根拠とした処分を行おうとするのであれば、上記のような審査請求人の主張ではなく最高裁判決等の方が今日においても正しいと判断した理由を明らかにする義務がある。 裁決の理由 1.本件事案の事実関係は、関係書類等によれば、次のように認められる。 (1)審査請求人は、平成11年6月19目、関西空港税関支署旅具検査場において、旅具検査官により、本件雑誌を発見された。 (2)関西空港税関支署長は、本件雑誌には男性の性器が表現されていたことから、法第21条第1項第4号に該当するものと認め、審査請求人に対し、本件通知を行った。 2.審査請求人は、「わいせつ」の定義及ぴ「風俗を害する」の文言の意味が不明確であり、「わいせつ物が風俗を害する」いう主張の意味が不明である旨主張するが、「わいせつ」とは、昭和26年5月10日最高裁第一小法廷判決によれば、「いたずらに性欲を興奮又は刺激せしめ、かつ、普通人の正常な性的差恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」とされており、刑法第175条の規定の解釈に関する判例の蓄積により明確にされている。また、「風俗を害すべき」の意味及ぴ「わいせつ物が風俗を害する」という主張の意昧についても、昭和59年12月12目最高裁大法廷判決によれぱ、「法第21条第1項第3号(現第4号)にいう『風俗を害すべき書籍、図画』等との規定を合理的に解釈すれぱ、右にいう『風俗』とは専ら性的風俗を意昧し、右規定により輸入禁止の対象とされるのはわいせつな書籍、図画等に限られるものということができ、このような限定的な解釈が可能である以上、右規定は、何ら明確性に欠けるものではない」と判示されているところである。 3.本件雑誌には、男性性器を露骨かつ具体的に表現した写真が多数収録されており、「わいせつ性」の判断の基準となる一般社会において行われている良識すなわち社会通念が時代の変遷とともに変化することを考慮してもなお、現下の社会情勢においては、「わいせつ表現物」に該当するものと認められる。 4.憲法第21条第2項との関係については、昭和59年12月12目最高裁大法廷判決によれば、「税関検査は、関税徴収手続の一環として、これに付随して行われるもので、思想内容等の表現物に限らず、広く輸入される貨物及ぴ輸入される郵便物中の信書以外の物の全般を対象とし、(法第21条第1項)第3号(現第4号)物件についても、右のような付随的手続きの中で容易に判定し得る限りにおいて審査しようとするものにすぎず、思想内容それ自体を網羅的に審査し規制することを目的とするものではない」とされており、「(法第21条第1項)第3号(現第4号)物件に関する税関検査は、憲法第21条第2項にいう『検閲』に当たらない」と判示されている。審査請求人は、大阪税関長が当該判決を根拠として税関検査は検閲ではないとしていることについて、これらの論理は単なる詭弁であり、税関検査を合法化することを第一の目的として創り出された言い逃れの論理である旨主張するが、同判決は、その後の判例によっても是認され、踏襲されている(例えぱ、平成元年4月13目最高裁第一小法廷判決)ところであり、当該主張を認めることはできない。 5.審査請求人は、わいせつ物の流通を規制する法第21条第1項第4号を含むすべての法律は、憲法第13条、第21条、国際人権規約第19条第2項などに照らして、違憲・違法・無効である旨主張するが、平成7年4月13日最高裁第一小法廷判決によれぱ、「関税定率法第21条第1項第3号(現第4号)の規定によるわいせつ表現物の輸入規制が、憲法第21条に違反しないことは、当裁判所の判例(最高裁昭和57年(行ツ)第156号同59年12月12日大法廷判決・民集38巻12号1308頁)の示すところであり、その余の憲法の規定に違反するものでないことも、右大法廷判例の趣旨に徴し明らかである」とされており、また、市民的及ぴ政治的権利に関する国際規約(いわゆる国際人権規約B規約)第19条第3項によれぱ、同条第2項の表現の自由についても、無制限のものではなく、また関税定率法第21条第1項第4号の規定が当該国際規約の規定に違反しているという判例もないことから、審査請求人の主張を認めることはできない。 6.審査請求人は、本件雑誌に関して、今日においても、旧来の最高裁判決等を根拠とした処分を行おうとするのであれば、審査請求人の主張ではなく最高裁判決等の方が今日においても正しいと判断した理由を明らかにすべき旨主張するが、上記に引用した判例はその後においても最高裁において是認されているところであり(平成11年2月23目最高裁第三小法廷判決等)、また、行政庁が個別の処分をするに当たってその根拠となった法令の合憲性に関する判例の当否を独自に判断する権限はないことから、審査請求人の主張を認めることはできない。 7.以上のとおりであって、審査請求人の主張には理由がなく、よって主文のとおり裁決する。 平成12年2月18日 大蔵大臣 宮澤喜一(印)
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